研究課題/領域番号 |
25410172
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 聡 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (50227899)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 極限環境微生物 / 極限酵素 / キチナーゼ / 分子表面電荷 / 耐アルカリ性 / 耐熱性 / 耐塩性 / 有機溶媒耐性 |
研究実績の概要 |
高度好塩性古細菌Halobacterium sp. NRC-1株由来キチナーゼChiN1は,反応至適NaCl濃度を1.0 Mにもつ耐塩酵素である。一般に耐塩タンパク質は酸性アミノ酸含量が高いという特徴をもち,分子表面の酸性アミノ酸のもつ電荷が溶媒の水分子を強固に保持することで,水分含量の少ない環境において活性を維持していると考えられている。また,分子表面のLysはその長いアルキル鎖によって疎水性表面を増大させるため,耐塩タンパク質にとって不都合であるとも考えられている。平成26年度は,ChiN1 の分子表面にさらに多くの酸性アミノ酸を導入した変異型酵素,あるいは分子表面に存在する溶媒露出表面積の大きいLysを短い側鎖をもつAlaや酸性アミノ酸であるAspに置換した変異型酵素を網羅的に調製した。ChiN1へのアミノ酸導入箇所は,タンパク質分子モデリングソフトを用いて作成した立体構造モデルに基づき決定した。また,変異型酵素の発現には,耐塩タンパク質発現で充分に実績のある高度好塩性古細菌Haloarcula japonicaの分泌発現系を使用した。 分子表面に酸性アミノ酸を導入した変異型酵素のうち,N357D(Asn357をAspに置換)においてのみ,野生型に比して耐塩性の向上が見られた。また, Lys をAla ないしAspに置換した変異型酵素の耐塩性は野生型とほぼ同様であったが,約半数の変異型酵素が有機溶媒ジメチルスルフォキシド(DMSO)に対して高い耐性を示すことがわかった。 これらの結果より,分子表面へのアミノ酸置換の効果は,耐塩性よりもDMSO 耐性に対して強く見られることがわかった。高塩濃度環境と水-極性有機溶媒環境は水分活性の低い環境である点は共通であるが,ChiN1 がもつ耐塩機構と有機溶媒耐性機構は必ずしも同一ではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極限環境微生物が生産する極限酵素の極限環境耐性機構については不明な点が多いが,タンパク質分子表面のアミノ酸が極限環境耐性に大きな影響を及ぼしている例が少なくない。本研究では極限酵素の分子表面アミノ酸に注目し,(1)極限酵素がもつ固有の極限環境耐性発現の分子機構を解明し,(2)耐アルカリ性・耐熱性・耐塩性の分子機構における普遍性と独立性を調べた上で,(3)複数の極限環境耐性を有する新規極限酵素(poly-extremozyme)を創製することを目的としている。また,平成26年度からは,極限環境耐性として有機溶媒耐性およびイオン液体耐性の概念も導入することとした。平成26年度は,高度好塩性古細菌Halobacterium sp. NRC-1株由来耐塩キチナーゼChiN1に焦点を絞り,その分子表面に酸性アミノ酸を導入した変異型酵素,分子表面のリシンを除去した変異型酵素,さらには分子表面のリシンを酸性アミノ酸に置換した変異型酵素を調製した。各種変異型酵素の耐塩性・有機溶媒耐性を調べることで,分子表面の酸性アミノ酸およびリシンと各種極限環境耐性との関連性を明らかにしており,研究はおおむね順調に推移しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,平成26年度に調製した耐塩キチナーゼChiN1の分子表面にアミノ酸置換を導入した各種変異型酵素を用い,さらに広い範囲の有機溶媒に対する耐性やイオン液体耐性を調べることで,分子表面アミノ酸と各種極限環境耐性との関連性を明らかにする。また,既に超高度の耐熱性を獲得している超好熱性細菌由来キシラナーゼXynTBに対し,これまでに得られた知見に基づきさらなる分子表面改変を施すことで,複数の極限環境耐性を併せもつ究極の新規poly-extremozymeの創製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種変異型酵素のハイスループットスクリーニング系構築のため96穴プレート用振とう培養機の購入を予定していたが,本研究代表者の研究室に既設の恒温槽を修理し,本研究の遂行に充当することとしたため,平成26年度に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額については,耐塩キチナーゼChiN1を基盤とする変異型酵素の精製に必須なNiアフィニティーカラムの購入に充当する。さらに,イオン液体耐性の検討に必要な種々のイオン液体の購入にも充当する。
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