研究課題/領域番号 |
25410175
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和泉 雅之 大阪大学, 理学研究科, 講師 (80332641)
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研究分担者 |
梶原 康宏 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50275020)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不良品糖タンパク質 / ユビキチン / 高マンノース型糖鎖 / 固相合成 / δ-メルカプトリシン |
研究概要 |
本研究では、細胞が恒常性を保つため、本来の立体構造を取ることができなかったミスフォールドした糖タンパク質を細胞内から分解除去する経路について詳細に調べることを目的とし、そのプローブとしてミスフォールドしかつユビキチン修飾された分子量2万程度の糖タンパク質の初の全合成を目指している。その要素技術として、1) 糖鎖構造の異なる高マンノース型糖鎖の調製とそれを用いた糖ポリペプチド鎖の合成、2) ユビキチン化のためのユビキチンの合成、3)糖ポリペプチドとユビキチンとの連結、が必要である。まず、1)については、すでに調製法が確立しているM9糖鎖に加えてM7糖鎖の分離精製を検討し条件を確立した。今後、M7糖鎖については目的とする分岐構造を持つものかどうか確認する必要がある。2)については、76残基のユビキチンを3つのペプチドセグメントに分割して各セグメントの固相合成に成功した。今後、各セグメントの連結法を検討する。一方、大腸菌発現による合成も検討し、N末端側にタグ配列を入れることで発現が可能であることを確認した。3)については、糖ポリペプチドとユビキチンの連結部位に導入するδ-メルカプトリシンの合成法を検討した。安価なラセミ体のδ-ヒドロキシリシンを出発原料とし、酵素による光学分割を行うルートで固相合成に利用可能なFmoc保護δ-メルカプトリシン誘導体の合成法を確立した。今後、必要量の合成を行い、1,2)のペプチド合成に組み込んで目的とするユビキチン修飾不良品糖タンパク質プローブの合成を目指す。そしてこれを細胞質に導入しその分解状況を追跡する。また、糖鎖構造、ユビキチンの数、位置の異なる一連の糖タンパク質の全合成も検討し、分解経路における糖鎖とユビキチン修飾の関係を全合成を利用し系統的に調べることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、不良糖タンパク質のユビキチン化に必要なC末端がチオエステルで活性化されたユビキチン(76残基)の合成法の確立を目指した。まず大腸菌発現法を検討したところ、ユビキチンそのものを得ることはできなかった。しかし、N末端にタグ配列を導入することで発現が可能であることを見出した。一方、ポリユビキチンの合成を視野に化学合成も検討した。全長76残基のペプチドを、1-27、28-45、46-76の3つのペプチドセグメントに分割し、BocおよびFmocペプチド固相合成法を検討し、N末側の2つのペプチドセグメントはチオエステルとして、C末側ペプチドセグメントはヒドラジドとしての合成に成功した。これにより、今後十分量のペプチドセグメントの供給が可能となった。 また、不良糖タンパク質とユビキチンの連結およびユビキチンとユビキチンの連結によるポリユビキチン化に必要なδ-メルカプトリシン誘導体の合成法を検討した。安価なラセミ体のδ-ヒドロキシリシンを出発原料とするルートを検討し、10工程で酵素による光学分割の原料となるN-アセチル-δ-メルカプトリシン誘導体を得た。光学分割にはL-およびD-アミノアシラーゼを検討したところ、どちらも収率よく反応が進行することを見出した。合成したFmoc保護δ-メルカプト-L-リシン誘導体はモデルペプチドの合成を通して固相合成に使用可能であることを確認し、光学純度の確認も行った。この合成ルートは、中間体の取り扱いが煩雑であったため、現在より簡便な合成法を検討している。 このように、目的とするユビキチン修飾不良糖タンパク質の合成に必要な要素技術を確立する目処を立てることができ、研究目的の達成に向けておおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
目的物の合成のための要素技術のひとつであるユビキチンのC末端チオエステル体の合成は、3つのペプチドセグメントの合成法を確立しており、この方法を用いて各セグメントの量産を行う。そして、N末側からのネイティブケミカルライゲーション法による連結を検討する。C末ペプチドセグメントはヒドラジド体であるため、ユビキチン全長を構築後チオエステル体への変換を検討する。また、ポリユビキチン合成のために、δ-メルカプト-L-リシンを組み込んだユビキチンのペプチドセグメントの合成も行う。 固相合成に利用可能なFmoc保護δ-メルカプト-L-リシン誘導体の合成法は昨年度確立したが、保護基の選択を変えたより取り扱いの容易な合成法を現在検討している。これらの合成法を用いてFmoc保護δ-メルカプト-L-リシン誘導体の量産を行う。そして、δ-メルカプト-L-リシンを組み込んだ不良糖タンパク質の合成を検討する。不良糖タンパク質としては72残基のIL-8または76残基のMCP-1の合成を検討する。これらはジスルフィド結合を有するため、ジスルフィド結合を1カ所形成できないように変異をかけることで不良糖タンパク質とする。そして、δ-メルカプト-L-リシンを組み込んだ不良糖タンパク質とユビキチン-チオエステル体を、ネイティブケミカルライゲーション法で連結することで目的とするユビキチン修飾不良糖タンパク質の合成を達成する。 合成したユビキチン修飾不良糖タンパク質は、糖鎖を分解するPNGaseやタンパク質を分解するプロテアゾームのアッセイをin vitroで行い、糖鎖やユビキチンが分解経路の酵素活性に与える影響を調べる。さらに、ユビキチンや糖タンパク質部位に蛍光標識を導入し、細胞内に取り込ませその分解の様子を観察する。
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