本研究では、研究代表者が最近開発した、水溶性生物由来多糖のみを原料としながら水不溶性をもつフィルム材料(多糖複合フィルム)について、医用材料としての応用を念頭におき(1)薬物徐放担体としての評価、(2)細胞培養基材としての評価、(3)新規成膜法の開発、について検討を行うことを目的としている。最終年度の本年度は、それぞれ前年度のまでの実績を基に以下の成果を得た。 (1)については、コンドロイチン硫酸(CS)/キトサン(CHI)複合フィルムについて、低分子色素を薬物モデルとした一連の研究を論文にまとめた。またBSAやリゾチームなどのタンパク質の担持および徐放挙動の定量的評価を進めた。タンパク質の徐放は数日以上にもわたり、また放出されたリゾチームがその酵素活性を保持していることも示された。 (2)については、CS/CHIフィルム上でのNIH3T3細胞の増殖性が抑制されるという現象に対して、フィルムに接着タンパク質をあらかじめコートすることで増殖性が回復することを見出した。また種々のアニオン性多糖とCHIとの複合フィルムに対するNIH3T3細胞の接着、増殖性を評価し、それらがアニオン性多糖の種類によって影響を受けることを明らかにした。 (3)については、加熱延伸機を用いたCS/CHIフィルムの作製についてさらに検討を進め、温度と延伸回数の至適条件を見出した。フィルムの物性評価について、まず従来の熱プレスによって作製したフィルムの特性を論文にまとめた。加熱延伸によって作製したフィルムの評価を行い、熱プレスによるものと比較して延伸方向により大きな引っ張り強度を示し、力学的異方性が見られることを明らかにした。 以上(1)~(3)の各項目とも、本研究で得られた成果から新たな研究の展開が見え始めており、研究期間終了後もそれぞれ発展的な課題を設定し、検討を続けていく予定である。
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