最終年度は新規アルドース還元酵素(AR)阻害剤開発研究の一環として、オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質(GFP)の発色団モデルを12種類合成し、それらのAR阻害能を精査した。その結果10種類の誘導体において高い阻害活性が観測され、特に2-ナフチル基を有する誘導体がエパルレスタットに匹敵する非常に高い阻害活性を示した。これらの構造とAR阻害活性との相関を詳細に検討するためにドッキングスタディを行った。通常ドッキングスタディでは蛋白質データバンク(PDB)に登録されている蛋白質立体構造に対してリガンドをドッキングさせる。しかしARはリガンドの構造により活性部位の構造が変化するinduced-fit型の蛋白質であり、約100種類のAR-阻害剤共結晶構造がPDBに登録されているため、そこから解析に最適な立体構造を見出す必要がある。これに対し今回、実測のIC50値とドッキングスコアとの相関を利用して最適な蛋白質立体構造を定量的に決定する方法を新たに確立した。この手法により決定した結晶構造に対するドッキングスタディにより、GFP発色団モデルは活性部位との強い相互作用に加え、Trp219及びLeu300と疎水性相互作用していることがわかった。Lue300との相互作用は毒性軽減に関連があるとされていることから、GFP発色団モデルは毒性の少ない糖尿病合併症治療薬となり得ることが示唆された。 以上のように本研究では、標的酵素の立体構造に基づく分子デザインにより、新規AR阻害剤候補としてbotryllazine B類、プテリン-7-カルボキサミド類、GFP発色団モデルの3つのクラスを見出した。これらの何れにおいても非常に高い阻害活性と酵素選択性の鍵となるLeu300との相互作用が観測された。従ってこれらの化合物群は酵素選択性の高い阻害剤候補としてin vivo試験へと移行可能であり、本研究期間内の目的は達成された。
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