研究課題/領域番号 |
25410183
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
勝村 成雄 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 客員教授 (70047364)
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研究分担者 |
坂口 和彦 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80264795)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光合成初期過程 / フコキサンチン / ペリジニン / イリデンブテノリド / デオキシペリジニン / ICT準位 / 超分子複合体再構成 / 超効率的エネルギー伝達機構 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、本研究ではペリジニン及びフコキサンチンの構造的特徴とそれらの超効率的エネルギー伝達機能との関係を明らかにし、それらの機構の解明を目的とする。この目的に向け26年度は以下の成果をあげた。 1.25年度は、エチニルプロピオラートに対する高アンチ選択的エチニルスズ化によるE-β-エチニル-α-スタニルアクリレート(A) の一段階合成を報告した。26年度は、このユニークな高立体選択的な付加反応をさらに検討したところ基質一般性は認められなかったが、トリメチルシリル基を持つエチニルスタナンでは3mmol スケールでも高選択的に望むE 体が得られた。このビルデイングブロックA を用いて、ペリジニンのブテノリドカルボニルがメチレンとなったデオキシペリジニンのC32 類縁体の合成を検討した。その結果、期待どおりAの両官能基でカップリング反応が進行し、基本骨格の形成に成功した。その後エーテル環を形成させ、二重結合の混合物ながら目的化合物の合成に成功した。また、フコキサンチン及びその代謝化合物であるパラセントロンの合成に有用な、両官能性C5ビルデイングブロックの合成も実現し、それを用いたハーフセグメントの合成を実現した。 2.ペリジニンの超機能は、分子中に存在するイリデンブテノリド環に起因すると言われている。そこでこの仮説を証明するために、最も良く研究され伝達効率40%のβ-カロテンと比較するため、既知のβ-カロテン短鎖類縁体にイリデンブテノリド環を付与させた2種の類縁体の合成を行った。そして、これらの超高速時間分解吸収スペクトルを測定し検討した結果、イリデンブテノリド環は新たなエネルギー準位であるICT(分子内電荷移動)準位を発現する要因であることを実証した。これらの結果は、ICT準位は超効率的エネルギー伝達を担うことを強く示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。特に、吸収した光エネルギーをクロロフィルへほぼ定量的に伝達する超能力を有したカロテノイド、ペリジニンのエネルギー伝達機構の解明に向け、ペリジニンに存在するイリデンブテノリド環がICT エネルギー準位の発現の要因であることを実証した意義は大きい。また、ICT エネルギー準位と超効率的エネルギー伝達の関係を解明するための有力候補化合物であるデオキシペリジニンの短鎖類縁体を、立体異性体の混合物ながら合成できた成果は、今後のデオキシペリジニン合成に向けた貴重な情報になるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策には、特に変更はない。すなわち、本研究課題の目的は、海洋光合成初期過程を担う高次カロテノイドであるペリジニン及びフコキサンチンの超効率的エネルギー伝達機構の解明である。前年度までの研究において、両カロテノイドに存在するカルボニル基に起因した分子の分極により発現する新たな励起エネルギー準位であるICT準位の存在を立証した。その結果、これら高次カロテノイドの超機能は、このユニークなエネルギー準位からクロロフィルへのエネルギー移動に基づくことが強く示唆された。そこで最終年度では、カルボニル基を持たないデオキシペリジニンの合成を完成させ、それを用いたペリジニン―クロロフィル―タンパク質(PCP)超分子複合体の再構成およびそのエネルギー伝達効率の測定により、ICT準位と超効率的エネルギー伝達の関係を明らかにし、当初の目的を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の合成実験に必要な薬品類に係る費用および研究成果公表のための国際学会参加費に充てるため、直接経費の一部を基金として次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本研究課題達成に向けた最終段階となる。基金として繰り越した分は、そのための試薬、溶媒、クロマトグラフィー用シリカゲルに加え、特に、精製実験に必要なHPLC用のカラム、溶媒等の費用に充てる計画である。
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