研究課題
カルボニルカロテノイドであるペリジニン及びフコキサンチンは、海洋光合成における補助集光機能を有し、クロロフィル及びタンパク質と共に形成する超分子複合体(PCP複合体)において、吸収した光エネルギーを超効率的にクロロフィルへ伝達する。本プロジェクトの最終目標は、この超効率的エネルギー伝達機構の解明である。これまでの研究により、新奇なエネルギー準位であるICT(分子内電荷移動)準位の存在を実証し、その性質を解明し、ICTを介在したエネルギー伝達機構を提唱した。今回、この機構解明を目指し、ペリジニンと極めて類似した構造を有し異なったICT特性を示す分子として、ペリジニンのブテノリドカルボニル基を欠損させたジヒドロフラン誘導体(デオキシペリジニン)をデザインし、その合成を検討した。前年度までの成果を基に、独自に開発した2方向伸長可能なE-β-エチニル-α-スタニルアクリレート誘導体を用い、一端を構成する6員環エポキシビニルヨウ素化合物との Stille カップリング、続いて新たに開発したボロン酸エステル基を持つC5ビニルヨウ素化合物との薗頭カップリング、さらに別途合成した他端を構成するアレン結合を持つビニルヨウ素化合物との鈴木カップリングを順次実現させ、基本骨格の合成に成功した。次いで、立体選択的なジヒドロフラン環形成を金触媒により実現させ、目的とするデオキシペリジニンの立体化学を制御した合成を達成した。この合成法は、新たなシントンの開発により非常に効率の良いものとなり、相当する天然物およびその類縁体合成に威力を発揮すると期待される。次に、合成した化合物を用いて、PCP類似超分子複合体の再構成を様々な条件の下に検討した。しかし残念なことに、この再構成には成功しなかった。この結果および以前の検討結果から、PCP複合体は極めて厳密な構造的制約の基に成り立っていることが強く示唆される。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件)
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