本研究の目的は、光照射により核酸のグアニン四重鎖を安定化させるシステムを開発することである。グアニン四重鎖の安定化には、光でイオン化するユニークな化合物であるトリフェニルメタン誘導体を用いる。グアニン四重鎖は染色体末端のテロメアに存在しておりテロメラーゼの働きを阻害するため、がん細胞に多量に存在するテロメラーゼを抑えることができる。昨年度は、光応答性を有するビニルアルコールとのマラカイトグリーンコポリマーとヒトテロメアに見られる塩基配列が繰り返された24 merのオリゴヌクレオチドの混合溶液への光照射によりグアニン四重鎖形成が促進されることを明らかとし、さらにその結合様式の評価も行った。また、マラカイトグリーンカチオンとオリゴヌクレオチドとの結合をアデニン、チミン、グアニン、シトシンのホモポリマーについても調べたところ、グアニンホモポリマー以外のホモポリマーとはほとんど結合しないことが分かった。しかしながら、実際の細胞内は高濃度のカリウムイオンが存在する。このため、細胞内条件に近いカリウムイオン存在下での評価が重要となるばかりか、高濃度のカリウムイオンはヒトテロメア配列のオリゴヌクレオチドをグアニン四重鎖構造へと変化させる力も持っている。そこで本年度は、0.1 Mのカリウムイオン存在下での評価を行い、マラカイトグリーンコポリマーの光照射によるグアニン四重鎖の安定性を調べることにした。グアニン四重鎖の融点測定を行い、マラカイトグリーンカチオンの結合によりグアニン四重鎖の安定性は向上することを見出した。加えてマラカイトグリーンカチオンは、細胞内の複数塩基配列が存在する中で、ヒトテロメア配列への選択的に結合する必要がある。競合透析の結果により、マラカイトグリーンカチオンは6種類の塩基配列共存下でヒトテロメア配列への高い選択性を示した。
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