研究課題/領域番号 |
25410190
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
湯川 靖彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50200861)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マンガン錯体 / アミノ酸架橋錯体 / X線結晶構造解析 / 磁気的性質 |
研究概要 |
既に合成に成功したガドリニウム2-ニッケル6錯体が合成条件によって、対イオンとしてペンタニトラトガドリニウム陰イオンを含む結晶と過塩素酸イオンのみを含む結晶とが合成できることがわかったが、条件の制御には至っていない。磁気冷凍剤として用いる場合にはペンタニトラトガドリニウム陰イオンを含まない方が好ましいので、合成条件の制御を目指している。新たに、遷移金属イオンとして、存在量の多いマンガンを使用した錯体の合成を試みるために、グリシンを架橋配位子とするマンガン-グリシン錯体の合成を試み、3種類の鎖状錯体の合成に成功し、これらの構造をX線結晶構造解析により決定した。その結果、3種類の錯体は何れも6配位のマンガン二価がグリシンのカルボキシル基によりシン-アンチ型配位で架橋された鎖状構造であり、1つ目の錯体は単一グリシン架橋を持ち、残りの配位座を2つの塩化物イオンと2つの水分子が単座配位した錯体、2つ目の錯体は、二重グリシン架橋を持ち、残りの配位座を2つの塩化物イオンが単座配位した錯体、及び3つ目の錯体は三重グリシン架橋錯体であることが分かった。それぞれの鎖状錯体の磁気的性質を調べたところ、単一グリシン架橋錯体ではマンガンイオン間にほとんど磁気的相互作用がないこと、二重グリシン架橋錯体及び三重グリシン架橋錯体では弱い反強磁性的相互作用がみられ、その相互作用の大きさは三重グリシン架橋錯体の方がわずかに大きいことが分かった。また、マンガンイオンをL-プロリナト配位子で架橋したマンガン7核錯体の合成にも成功し、現在、X線結晶構造解析を行っている。結晶解析の途中ではあるが、7核錯体陽イオンの価数から判断すると、この7核錯体のマンガンイオンは2価のマンガンイオンに加えて3価若しくは4価のマンガンイオンを含む混合原子価状態にある可能性があり、電気化学的測定及び磁気的測定を行う準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではガドリニウムと種々の遷移金属とを組み合わせて新規異核多核錯体を合成し、その構造及び性質を調べ、試料をスペインのバルセロナ大学や英国のマンチェスター大学に送り、磁気的性質の検討を行い、得られた結果を国内外の学会で発表する予定であったが、合成及び構造解析が大幅に遅れ、結果を学会で発表することが出来なかった。その原因は、合成した化合物の確認に用いていたフーリエ変換赤外分光光度計と結晶構造を測定するためのX線回折装置が同時に故障してしまい、一時期、実験が完全に停止してしまったことによる。これらの装置を緊急に修理する必要が生じ、予定していた国内外の学会発表を取りやめ、また、スペインのバルセロナ大学での研究打ち合わせも中止し、これらのために計上していた旅費をすべて修理費に充て、更に、消耗品費を節約して修理費とした。修理後に合成及び結晶構造解析を再開し、グリシンを架橋配位子とするマンガン-グリシン錯体の合成を試み、3種類の鎖状錯体の合成に成功し、X線結晶構造解析を行い、3種類の錯体は何れも6配位のマンガン二価がグリシンのカルボキシル基によりシン-アンチ型配位で架橋された鎖状構造であることを解明した。更にマンガンイオンをL-プロリナト配位子で架橋したマンガン7核錯体の合成にも成功し、現在、X線結晶構造解析を継続中である。現在のところ学会や学術雑誌へ投稿する形での発表は行えていない。今後は、これらのアミノ酸架橋マンガン錯体を原料とし、ガドリニウムをはじめとするランタノイドを含む異核多核錯体の合成を行って構造及び性質を調べ、それらの試料をスペインのバルセロナ大学や英国のマンチェスター大学に送り、磁気的性質の検討を行う予定である。その結果に基づき、磁気冷凍剤としての性能を調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究課題申請書に記載した研究計画に基づき以下のように研究を行う。(1)種々の遷移金属-アミノ酸錯体とランタノイドとを組み合わせた新規異核多核錯体の合成を行い、赤外吸収・可視紫外吸収分光光度計、核磁気共鳴装置、質量分析計などを用いて得られた錯体の同定を行う【研究代表者・大学院生】:(2)単結晶が得られた場合には単結晶X線結晶構造解析装置を用いてX線結晶構造解析を行う。単結晶が得られなかった場合には、粉末X線回折装置及びX線吸収端微細構造測定装置を用いて構造の推定を行う。結果をもとに合成条件の再検討を行う【研究代表者・大学院生】:(3)得られた試料をスペイン・バルセロナ大学に送り、SQUID磁化率測定装置、スピン磁気共鳴装置(何れもバルセロナ大学所有)を用いて磁気的測定を行う。試料と共にX線結晶構造解析結果も送り、磁気的性質の解析を行う【Aromí博士】:(4)Winpenny教授(英国・マンチェスター大学)のグループに試料及び磁化率測定データを送り、磁気熱容量測定などを行い、磁気的性質を総合的に検討する【Winpenny教授・Tuna博士】:(5)送られてきた磁気的測定結果及び他の異核多との比較検討結果をもとに、関連化合物や新規化合物の合成を検討する【研究代表者・大学核錯体院生】:(6)研究代表者・大学院生が渡欧(外国旅費:日本⇔英国、スペイン)し、得られた結果を総合的に評価する【研究代表者・大学院生・Winpenny教授・Tuna博士・Aromí博士】:(7)期待する結果が得られれば結果を国内外の学会で発表する【研究代表者・大学院生】。また、上述の研究において、当初の期待通りの化合物が得られなかった場合には、合成条件の解明に主眼を移して研究を行う。また、予期せぬ新化合物が得られた場合にはその化合物の構造や性質の解明を行う。
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