研究課題/領域番号 |
25410191
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
飯田 雅康 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (00107343)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオン液体 / 遷移金属イオン / キレートアミン / プロトン性イオン液体 / 酸化還元反応 |
研究実績の概要 |
昨年に引き続いて,我々のグループが独自に開発したキレートアミンを持つプロトン性イオン液体(PIL)と遷移金属イオンとの相互作用を,本研究費交付によって購入した紫外可視近赤外分光光度計を基礎に,NMR緩和やEXAFS(つくばの高エネ研利用)を用いて広範に追及した。本年度は,数年間続けてきたアルキルエチレンジアミン型イオン液体中での銅(II)イオンの錯形成について論文を発表した。さらに,銅(II)イオンと比較する意味で,同じく二価の電荷を持つニッケル(II)やマンガン(II),鉄(II),コバルト(II)などのイオンとの相互作用について調べた。ニッケルイオンについては,銅イオンと異なる相互作用の特有の興味深いメカニズムが明らかにされた。また,マンガンや鉄,コバルトなどの金属イオンについては,イオン液体と徐々に酸化還元反応することが分かった。これは,一種の電気化学的な挙動と結びつく点で本研究プロジェクトの標題と関連している。一方で,極性基のアミンの数を1個増やしたジエチレントリアミン系のプロトン性イオン液体についてもエチレンジアミン系と同様に,銅イオンとの相互作用を調べた。わずかに分子構造が変わるだけでそれに応じて,より金属イオンを取り込みやすくなるとか,親水性が増すなどの顕著な効果が現れた。なお,アルキルエチレンジアミンも含めてこれらの一連のイオン液体のうち,疎水的なアニオンを持つものは水溶液から強く金属イオンを抽出できることを見出し昨年出版の論文で発表した。今年度は,更にこれらのイオン液体に取り込まれた金属イオンが,希硝酸溶液を用いることにより水層へ逆抽出できることを見出した。一方,産総研との協同研究により,我々の開発したPILが空中の二酸化炭素などの酸性ガスを効率よく吸着・脱吸着できることを見出し,昨年に特許出願している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,本研究課題の成果について溶液化学シンポジウムとイオン液体討論会でそれぞれ1件,2件,大学院生による発表を行い,また,一名の博士前期課程院生を修了させた。学術論文発表では,上記のように無機化学分野で代表的なアメリカ化学会発行のInorganicChemistry誌に長編の論文を発表した。審査員からの評価も高かった。本研究課題と密接に関連する二酸化炭素吸収材としての我々の開発したキレートアミン型イオン液体の有用性が産総研(仙台)との共同研究で明らかにされ,特許出願するにまで至った。この研究については,昨年6月にカナダで行われたイオン液体を用いた分離分析の国際会議においても発表した。今年6月に開催される第7回イオン液体国際会議ででも発表の予定である。また,本研究課題で代表者の飯田は神戸大のセミナーで招待講演を行い,活発で有意義な議論を交わした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に力点を置くのは,ジエチレントリアミン系のイオン液体である。この系はエチレンジアミン系に比べて,アミンの数が増えることによって金属イオンとの相互作用が増すとともに親水性が増加し,そのような構造変化に伴う協同的で顕著な効果が表れることが判明しつつある。これは,本研究課題の目的に沿った成果であり,興味深い。このトリアミン系は,一方で,上記のように産総研(仙台)と共同研究を行った結果,二酸化炭素の吸収と放出の可逆性がこれまで報告されたイオン液体系に比べて極めて高いことがわかり,目下特許出願中である。この共同研究との関連もあって,我々独自のジエチレントリアミン系のイオン液体は,更なる研究の推進により興味深い結果が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は高価な物品の支出が予想されたため,平成27年度の分を20万円前倒し請求していた。しかし,ほかの資金による援助があったため,本科研費からの出費が抑えられた。ほかに,前倒し請求していた理由は,本研究費が基金化されているのでやや余分に予算を前倒ししていても,余剰分は次年度に回すことができるので,平成26年度予算執行において余裕を持たせるためであった。
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次年度使用額の使用計画 |
もともと最終年度にあたる平成27年度の交付額は90万円であったのが,平成25-26年度に必要度が高くなったり,あるいはそう予想できる状況になったため前倒し請求したものである。その結果として,上記の次年度使用額と元来の平成27年度交付残額30万円を合計した572千円は最終年度の予算額としては,適当な額と受け止めることができる。このようなやり方も本研究交付金が基金化されていることを利用したものである。よって,次年度使用額の使用予定は元来の計画に基づき,高価な試薬の購入,高級測定機器の使用料金,そして成果発表のための海外出張旅費に充てる予定である。
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