本年度は博士前期課程二年の二名の院生を中心にした研究体制によって更に研究が進展し、研究代表者の勤務としても最終年度となる一年を充実した形で終えることができた。主に取り組んだ課題は二つある。一つは,triamineを極性基に持つプロトン性イオン液体と銅(II)イオンとの相互作用に関する研究で,これまで主に行ってきたdiamine-PIL系と比較しつつ研究を展開した。銅(II)イオンの錯形成によるイオン液体の13CNMR常磁性緩和から銅(II)イオンの錯形成の寿命を見積もった。先に報告したdiamine系に比べて寿命が著しく長くなっていることが分かった。また,diamine系とtriamine系双方のPIL系について3種類の色素を用いて極性に関する溶媒パラメーターを求めた。その結果,PILイオン対の片方のイオンの極性が高い方がイオン対を形成することによってむしろ極性が低くなることが分かった。二つ目の主な課題はアルキルエチレンジアミン遷移金属錯体の分子構造とイオン液体形成との関係である。銀,亜鉛,銅,ニッケルについて多数の金属錯体を単離し,電荷,カチオン側のアルキル鎖,対イオンの分子構造などの効果を系統的に調べた。その結果、一価のカチオンである銀錯体については、およそ予想されるような傾向が見られたがイオン間相互作用の強い二価のカチオン錯体については、分子構造の効果がより特異的に働き,単純な規則にはあてはまらないいくつかの興味深い結果が得られた。これらの研究を基礎として,研究課題に沿った共同研究も進んだ。我々が開発したtriamine-PILが二酸化炭素吸収剤として優れていることは産総研との協同研究で明らかにされていたが,2016年1月に特許が公開された。また電力中央研との協同研究ではdiamine-PILを添加剤として銅(II)イオンのイミダゾリウム系IL中での電気化学挙動への効果を調べた。
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