研究課題/領域番号 |
25410200
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
清水 章弘 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30584263)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | レドックス・フロー電池 / 二次電池 / 再生可能エネルギー / 酸化還元 / 有機活物質 |
研究概要 |
太陽光発電・風力発電などの再生可能エネルギーの有効活用を目的とした有機レドックス・フロー電池の開発に向け、新規有機活物質の研究を行った。まず、アントラキノン、フェノチアジンを基本骨格とする有機活物質を設計・合成し、多段階の酸化還元挙動を示すことをサイクリックボルタンメトリー測定により明らかにした。また、有機溶媒を用いて充放電を行い、水系より高い電圧を得られることを明らかにした。 次に、電解酸化によるハロゲン、カルコゲンのカチオンの発生・蓄積を検討した。支持塩、溶媒を検討し、高効率で発生・蓄積できる条件を探索した。室温で蓄積できる条件は見い出せていないが、低温で蓄電できる条件を見出すことができた。この知見を基に、反応開発も検討した。具体的には、カチオン前駆体をジメチルスルホキシド溶液中で低温電解酸化することで、ハロゲン、カルコゲンのカチオン種を発生・蓄積し、アルケンと反応させることで、ハロゲン、カルコゲンとジメチルスルホキシドが導入されることを見出した。その後アミンを加えることで、α位にハロゲンまたはカルコゲンが導入されたカルボニル化合物を合成できることを明らかにした。 最後に、カチオン種の酸化還元の検討を行った。現在のところ、可逆な酸化還元挙動を示す化合物の創出には至っていないものの、カチオン種を経由する電解酸化反応を開発できた。具体的には、芳香族化合物を保護基のついたイミダゾールの共存下電解酸化することで、芳香環上もしくはベンジル位にイミダゾールが導入されたカチオン種を合成でき、脱保護することでイミダゾール化できることを明らかにした。 以上のように、レドックス・フロー電池の有機活物質の開発を行い、基本骨格になりうる有機化合物を探索しただけでなく、そこから派生した電解反応の開発にも成功した。今後、レドックス・フロー電池の高容量化を目指す上で、重要な研究成果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レドックス・フロー電池に用いる有機活物質、特にπ共役化合物の開発においては、フェノチアジンやアントラキノンなどの可逆な酸化還元が可能な化学種を見出すことが出来た。高電圧化、高容量化については改善の余地があるので、今後の検討課題である。特に、酸化還元する骨格を小さくすること、有機溶媒への溶解度の向上することを中心に今後検討を行いたい。 また、ハロゲン、カルコゲンなどの有機活物質については、低温でカチオン種を発生・蓄積できることを明らかにした。室温で発生・蓄積できる条件は見つけられていないので、今後も検討を行う。また、これらのカチオン種は有機合成においても有用な活性種であり、それらを利用した反応開発も行うことが出来た。今後も、レドックス・フロー電池として用いるだけでなく、新規なカチオン種を利用した新規反応開発も行っていきたい。 カチオン種の酸化還元については、適切な活物質を見出すには至っていない。単純な芳香族化合物を中心に検討を行ったので、カチオン種を経由する新規反応へと結び付けることはできたが、今後は、ビオロゲンなど、可逆な酸化還元挙動を示すことが知られている化合物を中心に検討を行っていきたい。 以上のように、レドックス・フロー電池の有機活物質の開発においては、目標の6割ほどを達成することが出来た。また、不安定活性種を発生・蓄積する電解酸化条件の知見を反応開発に適用し、二つの新規反応開発を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
π共役化合物の開発においては、ベンゾキノンやナフトキノンに溶解性を向上させられる置換基を導入した化合物を設計・合成し、充放電試験を行う。溶解度に対する置換基の効果だけでなく、酸化還元電位や可逆性に対する効果も明らかにする。H字型の電解セルでバルクでの充放電挙動を明らかにし、実際にフロー型のセルを作成し、充放電が可能かどうか明らかにする。 また、ハロゲン、カルコゲンのカチオン種については、溶媒、支持電解質の検討を行い、室温でカチオン種を発生・蓄積できる条件の探索を行う。蓄積できたカチオン種の酸化還元挙動を明らかにし、有機活物質として使用できることを明らかにする。また、これらのカチオン種を用いた電解酸化反応の開発も引き続き行う。ジメチルスルホキシドとの反応だけでなく、アルケンとカチオン種を反応させて三員環のカチオン種を蓄積することができれば、アルケンの様々な二官能基化が行えると期待される。 カチオン種の酸化還元については、ビオロゲン誘導体を中心に検討を行う。酸化還元電位、溶解性、可逆性の向上を目指して検討を行う。カチオン種を用いた電解酸化反応の開発も引き続き行う。 以上の研究により、有機レドックス・フロー電池の基本となる化合物の開発を目指す。さらに、新しい展開として、両性の酸化還元特性を示す化合物の検討を行う。両性の酸化還元特性を示す化合物は、両極に用いることができ、混合による容量低下が問題にならないので、隔膜のない有機レドックス・フロー電池の開発につながると期待される。
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