研究課題/領域番号 |
25410202
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
駒口 健治 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80291483)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴法 / 色素増感太陽電池 / スピンプローブ有機色素 / 最隣接平均分子間距離 / 凝集 |
研究概要 |
本年度は、Dye-Aの大量合成を行い、TiO2上に吸着したDye-Aの分子間距離の評価を確実に行うと共に、色素増感太陽電池(DSSC)の光電変換特性と色素の分子間距離との関係を調査した。Dye-A単独吸着およびケノデオキシコール酸(CDCA)共吸着の2つの系について、吸着用溶媒として、THFとエタノールの2種類を用い、Dye-A吸着量の異なるTiO2膜を作成した。THF溶液を用いると、Dye-A単独吸着では凝集し、CDCAとの共吸着では均一に分散して吸着するという結果を再現性良く得ることができた。一方、エタノール溶液を用いると、単独では凝集して吸着し、CDCA共吸着でも凝集は完全には緩和されないことがわかった。以上の結果より、本研究で提案したスピンプローブESR法は、TiO2上に吸着した有機色素の凝集状態を分子間距離をパラメータとして評価する有用な方法であることを実証できた。 ESR測定のときと同じ条件で作成したTiO2膜を用いてDSSCを組み立て、その光電変換特性の評価を行った。THF溶液で吸着処理したTiO2膜では、Dye-Aの分子間距離が1.15 nmのときに光電流は最大値(短絡光電流 1.3 mA cm-2)となった。一方、光起電圧は、単独吸着では吸着量にほとんど依存しないが、共吸着ではCDCA濃度に依存して増加した。TiO2表面のCDCA分子により暗電流が抑制され起電圧が増加した可能性がある。Dye-Aを用いたDSSCのエネルギー変換効率の最高値は0.7%と低かった。これは、Dye-Aの可視光吸収能が乏しいためであり、Dye-Aの分子間距離と光電変換特性の関係については、結果の妥当性を慎重に検討する必要がある。この問題点は、Dye-Aよりも優れた可視光吸収特性を有するDye-Bを用いることで解決できると期待される。今年度は、Dye-Bの大量合成にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、Dye-Aを大量合成し、TiO2上の分子間距離の評価を行い、その分子間距離と光電変換特性との関係を得ることができた。しかし、Dye-Aの光捕集能は増感色素として低いため、その光電変換特性の測定結果については慎重に検討する必要がある。 Dye-Aを用いたDSSCの光電変換特性の問題点について、理論計算や吸収スペクトルの測定結果からある程度の予測はできていた。Dye-Aを用いて得られた結果の意義は、TEMPO導入有機色素をスピンプローブとしてESR測定することでTiO2上に吸着した色素分子の最隣接分子間距離を分子レベルで評価できることを実証したことにある。現在、優れた可視光捕集能を有すると期待される新規TEMPO導入有機色素(Dye-B)の大量合成を行っている。 計画よりも遅れている唯一の実験内容として、今年度購入したHPLCによるCDCAの定量分析法を確立できていないことが挙げられる。この原因は、pHを調整したバッファー水溶液を移動相に用いることによる色素の不溶性にあるが、前処理によって脱離溶液から色素を取り除くことで解決できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
拡張したπ共役系骨格を有するDye-Bの大量合成を行い、単独吸着および分散剤を共吸着したときの色素の凝集挙動について調査する。Dye-Bは、Dye-Aよりもπ共役系が拡張した骨格を有し、サイズも大きい。そのため、光電変換特性の向上が期待できるだけでなく、Dye-Aの結果と比較することにより、色素分子と分散剤との相対的分子サイズが異なる場合の色素凝集挙動に関する知見も得ることができる。また、分散剤の影響を詳しく調べるため、CDCA以外の分散剤(例えば、カプリル酸、ステアリン酸、ヘキサデシルマロン酸など)を用いて、Dye-AおよびDye-Bについて初年度と同じ実験を行う。色素だけでなく、分散剤の吸着量を評価するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて脱着させた分散剤を定量分析し、吸着条件や分散剤濃度、分散剤の種類と色素分子間距離との関係を調査する。 TiO2については、アナタース型が一般に用いられるが、製造会社等により粒径や物性に違いがある。そこで、DSSC用の光アノード電極として用いられる代表的なアナタース型TiO2であるPST-18NR(日揮触媒化成)や、P-25(日本エアロジル)、光触媒として用いられるAMT-100(テイカ)などについて、色素の凝集挙動を系統的に調査する。 Dye-Bについては、ESR測定に用いるものと同じ条件で作成したDye-B吸着TiO2膜を用いてDSSCを組み立て、その光電変換特性を評価し、開放光起電圧、短絡電流、エネルギー変換効率等と分子間距離との関係を得る。
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