高い導電性と適切な厚さをもつ緻密なCu2Oのp型半導体薄膜を,AlドープZnO(AZO)基板上,およびAZO基板上にn型半導体のチタニア(アナターゼ)薄膜上にそれぞれ形成し,酸化物からなるp-n接合型薄膜太陽電池の創製を試みた。薄膜形成のために,新たな分子プレカーサー溶液を開発し,化学的な形成を検討した。 調製した新規プレカーサー溶液をそれぞれのn型半導体膜上に塗布,熱処理し,Cu2O薄膜の形成を試みた。AZO基板上に直接形成した場合は,Cu2O単一相が得られなかった一方,アナターゼ膜上に形成した場合は,200 nm厚のCu2O単一相が得られた。このように,Cu2O薄膜形成は,下地層が組成に大きく影響することが明らかとなった。オージェ電子分光法で深さ方向に対する組成を分析した結果,AZO上にCu2Oを直接形成した場合は,ZnがCu2Oの表面層まで拡散するのに対し,アナターゼを下地層とする場合,同様な拡散は防止されることが明らかとなった。 形成した各積層膜の光照射下での電流-電圧特性を調べた。各積層膜は,太陽電池として動作し,AZOとCu2O膜の間にチタニア膜を形成したデバイスの変換効率は,AZO基板上に直接形成した膜に比べて約100倍高い0.001%を示した。以上のように,化学的湿式法の分子プレカーサー法は,200 nmの膜厚をもつ緻密なp型Cu2O薄膜の形成に有効だった。また,この薄膜とn型AZOまたはn型チタニアとのp-n接合により形成したデバイスは,太陽電池として動作した。チタニア相は,緻密で平滑なCu2O薄膜の形成や,金属イオンの相間拡散を防止するため,変換効率の向上に有効なことがわかった。
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