本研究では、フラーレンと同様に電子受容性のある単層カーボンナノチューブ(以下SWCNTと略記)を、各種アンテナ分子の励起状態の電子移動消光過程を通じて評価する技術の開発を目的としている。 以前の研究より、SWCNTは有機系太陽電池でアンテナ分子として利用されているルテニウムビピリジンの発光を電子移動消光することを見出している。平成25年度は、ピレン誘導体や色素などの通常知られているアンテナ分子はSWCNTと基底状態で電荷移動錯体を形成するため、電子移動は起こらないことを明らかにした。さらに平成26年度の研究で、SWCNTとの親和性はソフトなイオンの方が高く、相互作用が起こりやすいことが分かった。このため電荷移動錯体を形成するほど親和性が高い芳香族炭化水素より、ある程度ソフトなルテニウムなどを中心金属とする金属錯体イオンの方が、電子移動のためのアンテナ分子として有望と判断できる。 以上の成果を踏まえ平成27年度は、ルテニウムやイリジウムが中心金属でビピリジンやフェナントロリンの誘導体を配位子とする各種金属錯体をアンテナ分子とし、金属型と半導体型のSWCNTを電子受容体とした系の電子移動消光を比較した。その結果、金属型の方が電子移動が起こりやすく、これは両SWCNTの酸化還元電位の違いによることが分かった。この成果はSWCNTの構造が電子受容性に与える影響を明確にした好例である。SWCNTを有機系太陽電池の電子受容体として用いる場合、金属型の方が望ましい。 これらの研究成果から、有機太陽電池に最適となるSWCNTとアンテナ分子の組み合わせ候補を抽出することが可能になった。
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