スマートフォンなどのタッチパネル、ノートパソコンなどの表示素子表面、太陽電池などに重要な高い表面硬度と屈折率をもつフィルム化可能な材料は重要である。成形性は有機構造で、高硬度と高屈折性は亜鉛などの金属構造で獲得できるが、両者の親和性の低さが障害となり、均一かつ高強度の材料を得るのは困難である。これを解消するために、双方に高い親和性をもちながら高屈折性でもあるイオウを仲立ちとして、新しい有機-イオウ-無機ハイブリッド材料の開発を検討した。 まず、亜鉛アリルジチオカルバメート系モノマーのラジカル共重合およびエン-チオール反応に基づく光硬化性樹脂の合成を検討した。同モノマー、アクリレート類などの二重結合をもつモノマー、および光ラジカル開始剤、さらに必要に応じてチオール類を加えた混合物に紫外線を照射させることで、様々な透明かつ耐溶剤性に優れるフィルムの作製に成功した。屈折率(nD)は1.67程度で、同モノマーを加えずに得られたフィルムより大幅に高かった。また、ラジカル重合ではハードコートに適した硬度のある硬化物が、エン-チオール反応では柔軟で伸縮性のある光学接着剤等に適した硬化物が得られることが分かった。 次に、亜鉛塩と硫黄化合物および有機モノマーからの熱可塑性有機-イオウ-無機ハイブリッドポリマーの合成を検討した。適切な反応条件を選択することで、高収率で対応するジメチルスルホキシドなどの高極性溶媒のみに可溶性の直鎖ポリマーを合成できた。このポリマーは白色で、モデル化合物の屈折率から、優れた光学材料として期待できる。
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