研究課題/領域番号 |
25410210
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木下 基 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40361761)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 色素 / 光 / 配向 / オリゴチオフェン |
研究概要 |
本研究では,分子集合体の配向を光で制御可能な手法を開発することにより,有機デバイスの高性能化・高機能化に資する材料の探索を容易にすることを目的とする。このため,光配向性に優れる系をいかに調製できるかが鍵である。これまでに,非線形性の向上や低光強度において誘起できる様々なホスト液晶やオリゴチオフェン誘導体が開発されているが,光配向変化にかかる閾値強度は数10 W/cm2以上と光強度が高い。このため,多様なデバイスへの応用には,配向にかかる光強度をできるだけ小さくすることが必要不可欠である。今年度は,低い光強度で配向変化できる系の開発を目指して,ホストとして高分子安定化液晶に着目し,オリゴチオフェンをドープした系の光応答性について検討した。 室温でネマチック相を示す5CBとアクリレートモノマーA4CBを87 mol : 13 molで混合し,これにオリゴチオフェンTR5を0.1 mol,紫外線に吸収帯をもつ光重合開始剤Irgacure 651を0.5 mol加え,重合用試料を調製した。この試料をシランカップリング剤で垂直配向処理したセル厚100 μmのガラスセルに封入し, 高圧水銀灯の366 nmの輝線を光強度1.0 mW/cm2で60 min照射して光重合し,色素ドープ型高分子安定化液晶サンプルを調製した。サンプルにArイオンレーザーの波長488 nmの鉛直偏光をサンプルに照射した。サンプルを透過したレーザー光は, 閾値強度以上で,スクリーン上に環状の干渉縞を形成することから,高分子安定化液晶においても,液晶分子を安定に光配向変化できることが明らかとなった。これまでの低分子液晶を用いた系と比較すると,約6分の1の光強度で分子配向変化を誘起できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,光配向できる材料系を開発することが,その後のデバイス応用への鍵をにぎるため,光配向性材料系の探索が重要である。本年度は,配向の安定性評価のために,液晶およびモノマーの混合の比率を変化させた。液晶5CBとアクリレートモノマーA4CBの濃度比が87 mol : 13 molのときに,配向の安定性を保持したまま,光強度が大きく低減化することを見いだした。これまでの低分子液晶を用いた系と比較すると,配向変化にかかる閾値強度が約6分の1であり,Adv. Opt. Mater.に掲載されたことからも評価に値する成果である。また,光配向性色素としてオリゴチオフェンだけでなく,光安定性の高い色素の探索を試みたところクマリンやナフタルイミド系蛍光色素が液晶を光配向させることを初めて明らかにした。オリゴチオフェンよりも,広い光強度照射においても安定に液晶を光配向できることがわかった。これは,蛍光性の高い色素を用いたことにより,光照射における熱失活を低減化させることに大きな役割を果たしたためであり,蛍光性色素の新しい用途の拡大につながる成果である。従来のオリゴチオフェン誘導体では,分子骨格上,蛍光性の向上が望めないことから,従来の系では高効率化は期待できないが,光配向性を示す蛍光性色素を用いることにより,アルキル鎖制御による液晶との相溶性や分子間力の制御などが見込めるため,従来の色素分子構造よりも分子骨格の探索が有利になる。それゆえ,元々,蛍光性分子は,π電子が豊富なため,配向制御が鍵をにぎる有機エレクトロニクスやフォトニクス材料への展開の障壁を下げる成果として評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,液晶中にドープした色素に着眼点をおいた研究を展開し,検討例のないクマリンやナフタルイミド蛍光色素が光配向可能なことも見いだした。蛍光色素は,市販のものが多数あることから,今後も継続して,光配向変化に及ぼす色素分子の骨格の役割を明確にすることが,材料の高性能化・高機能化に新しい展開をもたらすと考えている。 また,色素のみならず,光配向性液晶系の効率化を促すために,色々なホスト液晶の役割も解明する必要がある。このため,液晶および色素に関する各種物性を,示唆走査熱量,紫外可視吸収,赤外吸収,蛍光,酸化還元電位などを測定することにより多角的に評価し,光配向システムの材料設計へフィードバックすることが必要不可欠である。 さらに,デバイス作製に向けて,重合性モノマーを用いた,薄膜かつ液晶の配向固定化を行い,最適な系の調製を行う。色素ドープ液晶の光応答挙動は,ポンプ-プローブ光学系を用いて時間分解測定を行い,色素の励起状態における電子状態の変化および液晶場との相互作用を詳細に検討する。さらに, Z-scan法や過渡回折格子法を用いて非線形光学効果あるいは微小屈折率変化の測定を行い,色素の非線形光学効果が液晶の配向変化にどのような影響を及ぼすかを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
Photonixの発表後,企業や大学研究者など多く方々から,共同研究を視野に含めた試料の提供があったため,試薬購入に充てる費用の支出を抑えることができ,消耗品において未使用額が発生した。 本年度で生じた未使用額は,次年度の研究をすすめるにあたっての試薬や光学部品の購入や,国内・国際学会やシンポジウム,論文発表などの参加費用および特許出願費用に充てることとしたい。
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