本研究では、有機デバイスの性能や機能の向上の鍵を握る分子配向手法を、多種・多様な材料系に適応可能にするために、特異な分子構造の光異性化を利用する光化学プロセスでなく、光電場と機能性色素の励起状態を利用する光物理プロセスに着眼点をおいて研究を行ってきた。従来のアントラキノンやオリゴチオフェンなどに加えて、これまでに有機EL素子用の発光性色素としても用いられているクマリン6においても光物理プロセスにより光によって分子配向変化できることが明らかにした。特に、クマリン骨格を基本骨格として、類似構造有する化合物の光配向挙動について検討し、光配向性と分子構造の相関関係の明確化を行った。 ベンゾチアゾール骨格構造をもつクマリン6,クマリン545およびクマリン545Tについて比較検討したところ、光照射中はクマリン6が安定に液晶の光配向変化を誘起できるが、クマリン545およびクマリン545Tはある一定の時間で初期配向緩和することがわかり、従来にない光応答挙動を示すことがわかった。これは色素の平面性と液晶分子との相互作用の大きさの違いに基づいており、色素の分子骨格の平面性を増大させることにより、誘起された液晶の初期配向への配向緩和力が増大するためと考えている。材料科学的な観点からは、ある一定の時間光応答性を示すことができるので、一時的な表示機能を有するセキュリティーディスプレイなどへの応用に期待がもて、新たな有機デバイスへの可能性を拓く新たな結果となった。
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