研究課題/領域番号 |
25410219
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
藤森 厚裕 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00361270)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 結晶性フッ素樹脂 / ナノ複合材料 / 有機化ナノフィラー / 結晶性透明プラスチック / フレキシブルフィルム / 表面修飾法 / 結晶構造解析 / 高密度非晶鎖 |
研究概要 |
全フッ素化結晶性樹脂PFAに加え,部分フッ素化結晶性樹脂ETFE,並びにP(VDF-TeFE)に対し,融点直下の高温延伸により結晶性を維持したまま,透明化できる事実を突き止めた.これは,これらのフッ素樹脂が非晶領域中に「剛直非晶鎖」を持ち,これが延伸により高密度化することで,結晶/非晶界面における透過光の屈折が最小限に食い止められるからである.このことにより,光ファイバーに用いることすら可能なdb/km単位の光伝送能を有するプラスチック透明素材が,300℃近い耐熱性のもとに構築できることを見出した.更に,この素材の耐熱性を革新向上させ,従来フッ素樹脂が持ち合わせていないガスバリア能を付与するために,有機化ナノフィラーとの複合化を行った.ここでの問題は,PAF,ETFEなどの結晶性フッ素樹脂は,汎用溶媒に不溶,或いは何溶性であり,かつ300℃近い高融点であるため,有機化ナノフィラーとの複合化の手段が存在しないことである.そこで,これまで長鎖四級アンモニウムカチオンで行われていたナノフィラー表面の有機化処理を,長鎖四級ホスホニウムカチオンに転換したところ,従来の熱分解温度220℃をはるかに上回る300℃耐熱の有機化ナノフィラーの形成に成功した.この耐熱性ナノフィラーを溶融混練法によりPFA,ETFE樹脂とナノ複合化させ,延伸フィルムを作成したところ,柔軟さと透明性を併せ持つ,結晶性フッ素樹脂/ナノフィラーコンポジットが形成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費課題初年度であった1年間の研究期間のうちに,部分フッ素化,ならびに全フッ素化結晶性樹脂に対するほぼユニバーサルな透明化の条件を解明し,その制御に成功した.これは,フッ素樹脂特有の「高密度非晶鎖」の存在によるものと結論づけられ,自由来から報告のある「剛直非晶鎖」との関連の解明に興味が喚起される結果となった.また,当該材料に対する更なる耐熱化と,新規のガスバリア能付与を志向した「フィラー充填型ナノ複合材料」の形成に関しては,先ず,①耐熱性の有機化ナノフィラーを合成することに成功した.これは長鎖四級ホスホニウムカチオンを用いて,保有の特許技術である「油/水界面修飾法」を適用し,高修飾率フィラーを形成させたことに基づく.②当該試料をナノ複合化する際にほぼ唯一無二の方法であると予測される300℃での溶融混練技術を,科研費により購入したラボニーダーミル装置で達成した,ということを受けて,成功に至ったと判断している.このナノ複合化結晶性耐熱透明柔軟プラスチックフィルムに対するAFM,並びにWAXD,SAXS,TEM測定から,フッ素樹脂マトリックス中にナノフィラーが良分散していることも判明した. 得られた試料の特性としては,耐熱性の高い結晶性材料であり,透明さを維持しながらフレキシブルで,なおかつ粒子表面の有機化処理ユニットとの造核剤効果から,結晶性が向上していることが示唆された.特に従来より耐熱性の高い全フッ素化樹脂に対する効果よりも,それに匹敵する融解温度を誇りながらも,はるかに低温で耐熱性が失われる部分フッ素化樹脂に対し,フィラー充填化によるナノ複合化の効果が顕著に現れた.次世代のプラスチック産業発展に繋がる有用な情報と思われる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として,定量的な耐熱性の評価と制御が挙げられる.この点について,フィラー添加量と結晶性の関係,或いは延伸処理・固定化熱処理・自由収縮などの処理が,結晶性や透明性に得耐える影響を解明する.また,300℃近い融解温度を示しながらも,150℃程度で耐熱性が損なわれていた部分フッ素化結晶性樹脂に対し,耐熱温度の最高値を向上させる取り組みを行う.部分フッ素化結晶性樹脂は,現在,電線材料として用いられているが,この耐熱温度を220℃まで向上させたいという社会的需要が存在する.これを全フッ素化樹脂を用いることで,280℃耐熱まで向上させられることは判明しているが,同時にコストも上がり,経済性に劣る.そこで,1.0wt%程度の極微量の有機化ナノフィラーの添加とナノ分散により,部分フッ素化結晶性樹脂/ナノフィラーコンポジットが220℃の耐熱性を担保できれば,プラスチック産業構造に革命を引き起こすことが期待される.従って,10年間連続使用温度220℃を部分フッ素化結晶性樹脂で達成することを目指し,コンポジット形成のフィラーナノ分散の効果と,フィラー表面からのエピタキシャル成長の効果を融合させて,耐熱温度の革新向上を目指していく. 加えて,当該プラスチックの物性向上の一助として,フィラー自身とその有機化処理技術に関しても,新提案を目指した検討を行っていく.現在の有力な候補として,ナノカーボン系材料の新提案として「ナノダイヤモンド」を提唱している.加えて,ナノダイヤモンド表面に対する有機化処理技術を提案し,部分フッ素化結晶性樹脂共重合体とのコンポジットを形成し,その構造/物性相関を明らかにしていく.
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