研究課題/領域番号 |
25410221
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山口 政之 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (40401947)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自己修復 / レオロジー / 高分子 / 結晶 / ブレンド / ゲル |
研究概要 |
本研究ではゾル-ゲル転移の臨界点に近いゲルを調製し、そこに存在するダングリング鎖の分子拡散を利用して自己修復性を付与する。これまで化学反応による架橋点を利用してゲルを調製していたが、熱硬化型であるため応用範囲に限定があった。平成25年度は、物理架橋点を利用して、熱可塑性樹脂による自己修復性材料の設計を試みた。 まず、低結晶性高分子における結晶を架橋点として臨界点に近いゲルを調製した。試料としては、酢酸ビニル共重合量の異なるエチレン-酢酸ビニル共重合体、D体分率の異なるポリ乳酸を用いた。どちらの試料においても、適度な結晶化度においてある程度の自己修復性を確認することができた。特にエチレンー酢酸ビニル共重合体では、破断強度がオリジナルの試料の10%程度にまで回復することを把握した。 また、スチレン-ブタジエン-スチレン三元ブロック共重合体と、スチレン-ブタジエン二元ブロック共重合体のブレンドにより、自己修復性ポリマーの創製を試みた。スチレン相が架橋点となり、二元共重合体のソフトセグメントがダングリング鎖となると考えている。しかしながら、得られたブレンドは自己修復性をほとんど示さず、材料設計に何らかの問題があると考えている。ただし、三元共重合体のみであっても、切断直後、すぐに接着するとある程度の自己修復性を示すことが判明した。切断直後はブタジエン部分が表面に多く存在しているためと考えられる。本現象は表面張力の時間変化からも示唆された。これは過去に報告例がない新しい知見である。 さらに、①高分子材料の表面ではガラス転移温度が低いこと、②低分子量可塑剤が偏在しやすいこと、を利用した自己修復材料設計も同時に進めている。今年度は、ポリビニルブチラールに可塑剤を添加すると、バルクのガラス転移温度より十分に低い温度であっても表面の擦り傷は治癒することを実験的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新しい自己修復材料の設計方法として、①低結晶性高分子の利用、②ブロック共重合体の利用を当初設定していた。②に関しては、予想を下回る自己修復性であったが、汎用性の高い三元共重合体だけでも自己修復性を示すという極めて新しい知見を得た。また、①低結晶性高分子に関する検討も順調に進んでいる。 さらに、今回、表面のガラス転移温度が低いことを利用した材料設計が可能であることを見出した。可塑剤を添加すると、多くのエステル系ポリマーに応用可能となることから、工業的な応用が期待できる結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画を先倒しして研究を進める。平成25年度の検討で得られた3つの方法による材料設計を継続するとともに、さらに新しいアイデアとして、無機フィラーとの物理吸着を利用した材料設計を進める。平成25年度の予備検討で、材料の選択は終えており、平成26年度に自己修復性の評価を進める。平成25年度検討した系に関しては、構造解析を十分に進めて、自己修復性と材料特性との関係を見極める。例えば、低結晶性高分子の検討では、ダングリング鎖の量が、結晶の重心間距離と分子鎖の広がりとの比によって決まると推測される。小角X線散乱測定による長周期の測定を進めており、ダングリング鎖の定量的な評価を進める予定である。本検討により、さらに詳細な材料設計が可能になると考えられる。 また、工業化を考えた場合の最適な系を考える。平成27年度にはスケールアップを進めることができるように検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、当初の計画よりも国内出張の回数が少なかったため、若干の予算が未使用となった。 平成26年度の国内出張回数を当初の計画より若干増やすことで予算を使用する。
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