研究課題
基盤研究(C)
意義、重要性、解決方法従来、外科臨床分野では、傷口や切開部分の接合、シーリングの手法として縫合がなされてきたが、縫合には時間がかかること及び縫合できない臓器がある等の問題があった。また、血液製剤を用いた生体接着剤にはウィルス感染の危険があった。これらの問題を解決する方法の開発が要望されており、本研究では、以下の方法により新規な手法の開発をめざした。1.天然高分子材料であるキチン、キトサンの利用により生体適合性、生分解性が期待でき、しかもウィルス感染の危険が無い安全な材料が期待できる。2.「キチン質への重合性官能基の導入」と「キチンあるいはキトサンのナノファイバーとの複合材料化」の併用で、迅速な硬化と材料強度の改善の両方を期待できる。具体的な内容と成果1.各種キチン質ナノファイバー分散液の調製: キチン、キトサンなどのキチン質は、単に微粉砕するとマイクロオーダーの微粒子は生じるが、水中での安定な分散液は得られない。申請者らは、キチン質繊維に着目して、解繊処理によりキチン粉末からキチンナノファイバーが得られることを世界で初めて見出している。本研究の初年度では、この手法を応用して、キチンナノファイバーやキトサンナノファイバー等の合計4種類のキチン質ナノファイバー(不溶性成分)を調製した。次に、重合性官能基を導入したカルボキシメチルキチン誘導体(可溶性成分)を調製した。2.上述の可溶性成分と不溶性成分の均一な分散混合方法を検討し、コラーゲンフィルムをモデルとした接着性能試験を実施した。その結果、キチンナノファイバーによる複合材料効果により、良好な接着性能を確認することができた。
2: おおむね順調に進展している
初年度には、生体接着剤の成分として、1.重合性官能基を導入したカルボキシメチルキチン誘導体(可溶性成分)の調製、2.不溶性成分であるキチンナノファイバー分散液、3.キチンナノクリスタル分散液、4.表面脱アセチル化キチンナノファイバー分散液、5.キトサンナノファイバー分散液、以上の合計5種類のキチン質材料の調製を計画し、達成した。次に、可溶性成分と不溶性成分を混合する際の均一な混合方法の件を計画し、凝集や不均一化を起こさない条件・手法を見出した。この方法で、重合性官能基を導入したカルボキシメチルキチン誘導体をナノ繊維で補強した4種類の複合材料について、コラーゲンフィルムをモデルとした接着性能を試験した。その結果、キチンナノファイバー複合材料と表面脱アセチル化キチンナノファイバー複合材料の二つの場合に、良好な接着性能を確認することができた。さらに、次年度の動物試験に必要なキチンナノファイバーの皮膚や消化管に対する作用についても、獣医外科臨床分野の評価担当グループの協力のもとに、事前の安全試験を行い、良好な結果が得られている。また、次年度の添加効果試験に用いる硫酸化多糖の調製に関して、各種分子量のフコイダンの作成についても検討できた。従って「おおむね順調に進展している」と判断した。
本研究の2年目には、初年度のデータの再現性や、条件の改良と同時に、獣医外科臨床分野での評価担当グループの協力のもとに、動物を用いた試験を依頼する予定である。その結果は、材料設計にフィードバックし、よりすぐれた複合材料をめざす。この目的のため、材料開発担当グループは、初年度と同様に、年度当初は重合性官能基を導入したカルボキシメチルキチン誘導体およびキチン質ナノファイバー分散液を新たに調整し、新鮮なサンプルを評価担当グループに提供する。さらに、材料開発担当グループは、蓄積された知見の中から生体に親和性の期待できる各種多糖材料を選定して、初年度の複合材料への添加効果を検討する計画である。
当初予定していた各種キチン質ナノファイバーの調製および重合性カルボキシメチルキチン誘導体の調製について、予想以上に失敗、破損等のトラブルが無く、スムースに課題が遂行できたことから、原材料、薬品等の調達や器具等の消耗品の購入が計画を下回ったため、次年度使用額が生じた。次年度では、1年目に調製した長期保存サンプルを用いた試験は補助的な評価に限定される。特に本研究の次年度は、生体を対象とした新規な課題をテストするため、初年度と同様に年度当初に各種キチン質ナノファイバーの調製および重合性カルボキシメチルキチン誘導体の調製を行い、劣化の無い新鮮な実験サンプルを用いて試験する予定である。そのための経費として使用する計画である。
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