アガロースを食品に応用する際にしばしば添加されるグリセロールおよび糖類の添加効果についての研究を行った。今年度は走査型電子顕微鏡によるゲルネットワーク構造の観察も行った。グリセロール添加系:グリセロール20-80水溶液を溶媒として作成したアガロースゲルの圧縮拘束下でのゲルからの溶媒輸送速度はグリセロール濃度依存的に低下した。また微小変形下での圧縮応力および大変形での破断強度は上昇した。これらの結果から従来報告されていたとおりグリセロール添加によりアガロースのゲルネットワーク構造が変化したと考えられた。ゲルネットワークのメッシュサイズがグリセロール添加により小さくなっていることが確認された。(グリセロール添加系の研究成果は現在論文投稿中)ショ糖添加系:ショ糖は代表的な甘味成分であるが、特に日本を含む東アジアにおいては寒天を利用したデザート類が多くショ糖のアガロースゲル物性に対する効果は多くの研究者によって精力的に研究されている。ショ糖20-50%水溶液を溶媒として作成したアガロースゲルの圧縮拘束下での溶媒輸送速度はグリセロールの場合と同様ショ糖濃度依存的に低下し、一方で力学特性への影響もグリセロールと同様であった。ショ糖添加によりメッシュサイズの低下が観察された。グリセロール(ポリオール)やショ糖などヒドロキシ基を分子内に複数有する化合物は水の構造あるいは多糖と水の相互作用に大きく影響することが知られており、アガロースのゲルネットワーク構造の架橋点の構造が変化するとの報告がある。今回得られた結果はこのようなアガロースゲルの微細構造変化を反映したものであると考えられた。従来の研究ではこのような微細構造へのポリオールおよびショ糖の影響を熱的あるいは力学的性質から考察するものがほとんどあったが、本課題では圧縮拘束下の溶媒輸送挙動という今までにない切り口で観察することに成功した。
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