研究課題/領域番号 |
25410241
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
松岡 雅也 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80305648)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カソード触媒 / 燃料電池 / 酸素還元 / チタン酸化物 |
研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード触媒には高価な白金族材料が多量に使用されており、本格普及にむけて代替触媒の開発が必須となっている。本研究では,白金代替触媒として新たに電子伝導性が高く、腐食環境にも強い還元型酸化チタン(Ti2O3)に着目し、RFマグネトロンスパッタ法を用いてTi2O3触媒を作製するとともに、そのカソード触媒性能を評価した。また、スパッタの際の基板温度、成膜圧力、およびターゲット-基板間距離の最適化を通して、高活性、高安定性を示す白金代替Ti2O3触媒の開発を行った。 Ti2O3薄膜触媒はTi2O3ターゲットを用い、まず、基板温度を293~1073 Kまで変化させ、成膜した。基板温度が873 Kに達すると酸素還元反応(ORR)活性が著しく向上したため、最適な基板温度は873 Kであると見極めた。次に、成膜圧力を1.0~3.0 Paまで変化させたところ、成膜圧力1.0 PaがORR活性の最適値であることがわかった。また、基板温度の上昇、成膜圧力の低下に伴い、TiO2相の割合の低下およびTi2O3の結晶性の向上が進行し、電気抵抗率が低下することが明らかとなった。また、この電気抵抗率の低下に伴い、ORR活性が向上することを見出した。以上のことから、基板温度の上昇と成膜圧力の低下に伴うORR活性向上には、電気伝導性の向上が大きく寄与しているものと結論した。さらにターゲット-基板間距離の最適化を行った結果、ターゲット-基板間距離50 mmとした時、Ti2O3(110)面の選択的な結晶成長が観測されるとともに酸素還元電流が飛躍的に向上することがわかった。以上のことから、Ti2O3(110)面の選択的な結晶成長がORR活性の向上に重要な役割を果たしていると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度ではスパッタ条件の最適化によるTi2O3薄膜触媒の高活性化について検討し、スパッタ時の基板温度、成膜圧力、およびターゲット-基板間距離の最適化を通して、高活性、高安定性を示す白金代替Ti2O3触媒の調製に成功した。本触媒の電気抵抗率は1.3 × 102 μΩ cmと一般的なTiO2薄膜(1018-20 μΩ cm)に比べ極めて低く、良好な電気伝導性を有することも明らかにした。このTi2O3を触媒として利用することで、第4,5族酸化物触媒の課題として挙げられてきた触媒層内部での電圧損失が抑制でき、高活性な触媒の開発できることを明らかにすることができたため、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後,窒素・炭素・ホウ素ドープによるTi2O3薄膜触媒の高活性化について検討を行う.近年,第4,5 族遷移金属酸化物であるZr,Ta 系触媒に窒素や炭素を複合化する試みが報告されている.実際,これら複合化により触媒のORR 活性は飛躍的に向上しており,酸素欠陥だけでなく,触媒にドープした異種元素である窒素や炭素が触媒活性点となることが示唆される.このような指針に基づき,本研究においても,アルゴンスパッタガス中に窒素や一酸化炭素を導入することで,Ti2O3薄膜触媒中に窒素や炭素を複合化し,ORR 活 性の大幅な向上を図る.さらに,スパッタガス中の窒素や一酸化炭素の濃度を制御し触媒中のドーパント量の精密制御を行うとともに,XPS 測定により,異種元素ドープとその濃度がTi2O3薄膜触媒の電子状態や表面化学組成に及ぼす変化についても明らかにする.さらに,これらの変化とORR 活性の関連性を詳細に検討し,不明な点の多い酸素還元反応の活性点構造と反応メカニズムを明らかにし,高いORR活性を有するTi2O3薄膜触媒の設計指針を得ることを目指す.
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