研究実績の概要 |
不均一金属酸化物光触媒システム全系の電子構造とその表面における反応分子のダイナミクスを第一原理手法により解明し、光触媒システムの最適化の方法を探ってきた。主にW, V, Ta, Ti, In等を含むいくつかの酸化物の様々な表面における分子の吸着現象や、助触媒の機能や効果、水分解の際の反応液中の電解質の役割等について、システムの全電子構造を検討することで明らかにしてきた。例えば、YVO4光触媒物質に担持させたPt助触媒やNiの酸化物に由来する助触媒の機能を理論的に検討した。その結果、Pt助触媒による励起電子キャリアの分離や反応分子の吸着機能の詳細、プロトン還元機能が増強されるメカニズムのイメージが明確になったし、Niが触媒母体表面に酸化物として取り込まれると、起こりがちな酸素欠損の悪影響を抑えることができると同時に、励起キャリアの局所的分離が可能となり、酸素と水素の両方が生成されやすくなることも突き止めた。類似の検討から、TiO2の水分解性能は反応液(水)に電解質を添加すると、TiO2表面へのアニオンの接触やカチオンの接近により、酸素イオンが酸化されやすい(酸素発生に繋がる)状態を作り出すはずであると推定されたが、このことは一部実験でも確認できた。さらに、WO3、InVO4、InTaO4光触媒と水の不均一系における、水分子の吸着のメカニズムや全電子構造の特徴からは、WO3は表面準位の電子構造が酸素発生のために有利であるが、InVO4は不利であり、InTaO4においては、水素も酸素も発生し得ることが理論的に推測されたが、実験事実とも一致した。また、可視応答性を高めるためには、特に触媒表面に露出したIn周辺の酸素原子配位構造の制御が重要であること、表面準位の悪影響を防ぐには表面に露出する酸素イオンの位置的状況の制御が重要であることが分かった。表界面を考慮する不均一系の全電子構造の理論予測は高い確度でシステム設計を可能にすると期待できる。
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