コバルトフタロシアニン(CoPc)を熱分解させて得られるナノ粒子状の炭素材料における、CoPcをはるかに上回る水素発生触媒活性の発現機構を解明するため、原子レベルでCoPcの熱分解挙動を解明し、熱分解進行度と水素発生反応機構の関係を調べることを目的とし、熱分解進行度が異なり、かつ、単分子層レベルで薄いCoPc由来炭素薄膜を高配向性熱分解黒鉛(HOPG)基底面上に作製し、走査型トンネル顕微鏡(STM)観察を行うことにより、原子レベルでの熱分解挙動を明らかにすることを試みた。 CoPcからは、これまでに報告例のない線上や階段状などの特異な構造が出現することが判明したものの、熱分解単層膜の生成は困難であることが分かったため、CoPcに代えて鉄フタロシアニン(FePc)を用いて、ハイブリッド物理化学気相成長法により高配向性熱分解黒鉛基底面上に炭素薄膜を作製した。走査型トンネル顕微鏡(STM)観察を行った結果、規則的に明点が配列した像が得られた。STM像の明点間距離は、FePcの最外周のベンゼン環が縮合したような構造から予想される明点間距離とよく一致することから、熱処理によるFePc由来炭素薄膜生成機構が明らかとなった。 金属フタロシアニンの中心がFeの場合、水素発生反応に対する触媒活性が小さいことがこれまでの実験結果からわかっているため、水素発生反応に代えて酸素還元反応に対する触媒活性の有無を調べた結果、本研究で得られた原子レベルで規則構造を有する平滑な構造が触媒活性を有することが分かった。また、放射光を用いたX線吸収分光分析によりFePc由来炭素薄膜中のπ軌道の配向性に関する知見が得られ、熱処理による平滑構造生成を裏付けることができた。金属フタロシアニン由来炭素薄膜におけるバナジウムイオン酸化還元反応活性も新たに見出された。
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