研究課題/領域番号 |
25410250
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
江頭 港 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20304842)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 二次電池 / ナノ材料 |
研究概要 |
電気化学デバイス、例えば高容量が期待される金属-空気二次電池への適用を企図して、鉄の酸化還元反応を理解し、また制御する目的で、鉄(水酸化鉄および酸化鉄)と繊維状ナノ炭素との複合電極を種々の手法により調製し、その充放電(酸化還元)特性を比較した。実用上の観点からは、現在10%程度である鉄の利用効率を向上することが最大の課題である。 具体的な複合方法としては、鉄イオンを含む酸性懸濁液にアルカリを滴下し水酸化鉄Fe(OH)xをナノ炭素NCF上に析出させる溶液法、およびナノサイズの酸化鉄Fe3O4を超音波照射中でNCFと混合する混合法を適用した。溶液法では懸濁液に20%ポリエチレングリコールPEGを添加することにより、析出するFe(OH)xを微小化することができた。種々の手法で調製したFe/NCF複合電極を試験極、アルカリ水溶液を電解液とする三極式セルを構成し、定電位充電-定電流放電のモードで電気化学的評価を行った。 鉄の含有量を変えて調製した複合電極の鉄1gあたりの放電容量は、PEG含有溶液法で鉄含有量30wt%、混合法で鉄含有量42%において大きく向上し、前者では443mAh/gを、後者では297mAh/gを、それぞれ示した。特に溶液法での複合電極で得られた容量は、鉄がすべて充放電に関与すると仮定したときの理論容量960mAh/gの半分程度に達し、電極構造設計の有効性が示された。こうした鉄含有量での複合電極において、鉄化合物がナノ炭素表面を被覆しネットワーク構造を形成することが観察され、このネットワーク構造の形成が鉄の利用効率向上の鍵になることが示唆された。また、-0.9Vの電位平坦部の挙動から、鉄の効果的な充放電にはオキシ水酸化鉄FeOOHが関与すると推測される結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を端的にまとめると、①電池電極としての鉄の利用効率の向上、および②放電(酸化)過程での鉄の変化の理解、である。このうち①に関しては、鉄の利用効率として現在最大で約46%に到達し、先行研究および研究代表者の従来の研究に比べて大きく向上した。また②に関しては、鉄の利用効率が向上するケースでの微視的構造および反応の類似性を確認しており、放電過程での反応に対して一定程度推測できる状況となった。こうした点から、本研究は現時点でおおむね順調に進展しているものと言える。また、本研究での成果を電気化学会第81回大会にて発表するとともに、Electrochemistry誌に投稿し掲載が決定している。外部発表の点からも、研究が進展しているものと見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
現時点での課題として、①鉄の利用効率のさらなる向上、②現在推論できる程度情報が得られた鉄の放電反応過程に関する、情報収集および反応制御、の2点が挙げられる。複合電極の調製方法の点で、鉄の利用効率を向上させるような改善がさらに可能である。例えば鉄の価数制御や異種金属との共析などのアプローチにより、鉄の利用効率をさらに向上させることが期待できる。実用上の観点からは利用効率だけではなく、一体の電極としての重量あたり比容量が高いほうが望ましい。その意味でも、上記のアプローチにより鉄の含有量を挙げつつ有効に利用できる設計が可能になるものと期待される。このような電極設計、および充放電前後の構造変化の解析を通じて、②の放電反応過程への理解も深めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は当該年度に研究機関に着任したばかりであり、本務として初年度の教育への注力のため実質的な研究へのエフォート(業務時間)を減らさざるを得ない状況であった。行った実験の回数が予定より少なくなり、実験用消耗品および関連する業務用消耗品の使用量が予定より少ないものとなった。このため当初750千円を予定していた物品費の使用額が698千円、100千円を予定していたその他経費の使用額が0となり、主にこの理由により次年度使用額162千円が発生した。 研究成果欄に記載の通り、研究は順調に進行し成果を挙げていると自負している。次年度の検討項目が増えた状況であり、この成果を国内外の関連分野の学会発表および学術論文として発表する機会が計画より多くなることが想定される。この現状を踏まえて、繰越額を含めて実験用試薬やガラス器具などの購入費用(物品費)に462千円、電気化学会(国内および国際)での学会発表のための出張旅費として500千円、および論文投稿や英文校閲に係るその他の費用として200千円を、それぞれ使用することを計画している。
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