アルカリ水溶液中での金属鉄の酸化還元を負極反応として用いる二次電池は、低コストかつ高容量が期待でき次世代二次電池として魅力的な候補である。鉄の酸化還元は亜鉛などと異なり、酸化生成物の溶解度が低いため析出溶解のプロセスを経ず固相で進行する。こうした酸化還元の特徴は、電池のサイクル特性には好ましい影響を及ぼすが、一方で酸化生成物の不動態化により電極活物質の利用効率が低い値にとどまり、実電池でのエネルギー密度の低下が課題となっている。鉄負極の利用効率の向上を企図して、酸化鉄や水酸化鉄の微細な粒子を高表面積で軸方向の導電性に優れる繊維状ナノ炭素に担持した鉄/ナノ炭素複合電極を様々な手法で調製し、鉄の酸化還元特性を踏まえた高効率複合電極の設計指針を探った。 鉄のナノ粒子を溶液から析出させる手法および超音波照射で分散担持する方法を比較し、担持量による依存性を調査した。高分散に担持する場合は担持量増大により鉄の利用効率の低下が予想される。これに対し実際には担持法に関わらず、担持量のある程度までの増大により鉄の利用効率は向上した。これは中間的酸化生成種であるFe(II)による酸化促進効果を示唆する。Fe(II)を種々の形で添加した電極において、利用効率に改善が見られることを確認した。利用効率としては、コロイド安定化剤としてポリエチレングリコールを含む溶液からFe/C=50:50の比で析出した複合電極において、最も高い効率を示した。一方ナノサイズのFe3O4を超音波分散した複合電極では、幅広い組成で高い効率を示した。 平成27年度はFe3O4超音波分散法に着目し、担体の繊維状ナノ炭素の表面処理による担持状態の改善、および添加剤による水素発生副反応の抑制を検討した。いずれの課題に対しても、適切な手法の適用により問題の改善傾向が見られた。
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