研究課題/領域番号 |
25410253
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
稲葉 稔 同志社大学, 理工学部, 教授 (80243046)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 燃料電池 / 酸素還元反応 / イオン交換膜 / 酸素透過 / 微小電極 / 酸素透過速度 / 酸素溶解速度 / イオノマー |
研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)の低コスト化には低白金化と高電流密度運転が有効であるが、高電流密度運転時には酸素輸送律速による濃度分極の抑制が課題となる。そのため、空気極の酸素輸送特性の向上が望まれている。特に膜中の酸素透過抵抗と気相/イオノマー界面での酸素溶解抵抗の存在が示唆されているが, 実際のカソード触媒層では、触媒層中の酸素輸送は、直径数nmの白金触媒表面を被覆している薄いイオノマー中で起こるため、触媒層中で酸素輸送を直接観測することは困難である。本研究では、微小電極法を用いてイオノマー薄膜中の酸素物質移動を解析することを目的とする。 平成25年度は、まず白金微小電極を用いる4電極式固体電気化学セルを設計試作した。また、市販のNafion溶液を用いて電極上に厚さ数マイクロメーター以下のイオノマー薄膜層を設ける手法の確立を行った。開発した手法を用いて、Nafionイオノマー中の酸素拡散限界電流値を、様々な温度、湿度で測定し、イオノマー中の酸素物質移動挙動の解析を行った。イオノマー中の酸素物質移動過程として、気相/イオノマー界面における酸素溶解過程およびイオノマー中の酸素拡散過程が考えられるため、実験結果よりこの2つの速度を分離し、解析を行った。その結果、酸素拡散速度は、温度、湿度の影響を強く受けるが、酸素溶解速度はその影響が小さいことがわかった。また、イオノマー膜厚が500 nm以下であるときには、いずれの温度(30-80℃)、湿度(RH 30-90%)においても、気相/イオノマー界面での酸素溶解速度が律速となることが明らかになった。PEFCの触媒層でのイオノマー厚みはたかだか数nmと考えられており、PEFCの高電流密度運転時の酸素輸送速度を向上するためには、気相/イオノマー界面の酸素溶解速度を向上させる必要があることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白金微小電極法を用いる解析法の確立および開発した手法を用いたフッ素系イオノマーを介する酸素物質移動挙動を解明することができ、申請書に記載の平成25年度目標を十分に達成したと考える。特に、これまで明らかになっていなかった酸素物質移動過程における律速過程(気相/イオノマー界面での酸素溶解速度)を特定できたことは、学術的にも実用的にも大きな意義を持つものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、当初計画通り、炭化水素系電解質イオノマーであるスルホン化ポリアリレンエーテルスルホン (BPSH)、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン (S-PEEK)を入手し、今年度開発した微小電極法を用いて、これら薄膜を介する酸素透過挙動を解明、今年度得られたフッ素系イオノマーの結果と比較する。特に本年度明らかになった律速過程(気相/イオノマー界面での酸素溶解速度)が炭化水素系電解質イオノマーを用いることにより、高速化されるかに関して注目して研究を進める。 当初計画にはなかったが、最近律速過程として気相/イオノマー界面での酸素溶解速度に加えて、イオノマー/電極界面に何らかの酸素移動障壁があるという考えも提案されている。本年度はイオノマー/電極界面に何らかの酸素移動障壁を考慮せずに解析を行ったが、いずれが本当の律速過程であるのかはPEFCの高電流密度運転に取って非常に重要な問題であるため、この点に関しても、測定法を工夫と解明を行う。
|