研究課題/領域番号 |
25410255
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
荒地 良典 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50309209)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リチウムイオン二次電池 |
研究実績の概要 |
「Niを用いた新しい組成の合成および電気化学特性評価」に加え、「充電・放電に伴う結晶構造・電子構造変化の観察」を実施した。Ni含有量によって電池容量、電位の増加およびサイクル特性の向上が観察された。一方、放射光XRDを用いた詳細な結晶構造解析とともに軟X線XAFSによる電子構造変化の観察を行った。前者では、Li2MnO3のみの結晶構造変化に酷似していた。Liは結晶学的に異なる複数のサイトを占有するが、充電反応に伴って脱離した特定のサイトには放電反応によっても戻らないことを示した。一方のCuOには顕著な変化は見られず、充電前の結晶がサイクルを重ねても維持されていた。後者では、蛍光法による検出強度が十分に得られず、スペクトルの解釈が困難であった。したがって、X線強度や計測環境等の問題で限られたマシンタイムで目的達成が困難であると判断した。そこで、本コンポジット電極における酸素の関与をより明確にするために、GC-MSによる酸素ガス発生を計測することにした。その結果、酸素由来のピークは電池電位の上昇とともに明確に増加し、充電終了とともにピーク強度は減少した。定量分析は技術的な問題から行っていないが、本コンポジット電極の充電反応に伴う酸素ガス発生を直接観測することに成功した。そこで、セル雰囲気による電池特性への影響を検討した。初回の充電終了後にセル内をArとO2置換させた後に放電させた。その結果、後者の放電容量が増加した。したがって、初回の充電反応によって発生した酸素が活物質として寄与していることを明らかにした。また、サイクルを重ねることから可逆的な電池反応が進行しているものと考えられる。 以上より、Ni含有させた新しい組成を見出したことに加え、本コンポジット電極の電池容量に酸素が関与していることを直接観察することができた。これは酸素の関わる新しい電池反応の可能性があり、意義深い結果と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、XAFS,XPSによる遷移金属と酸素の電子状態観察を行う予定であった。前者については実施したが十分な強度が得られないなどの問題が生じた。そこで、電池内の酸素ガスをGC-MSによって計測することに変更した。その結果、特定の電位にて酸素ガスが電極から発生することが明らかになった。この結果を踏まえ、電池内の酸素分圧を変化させて電池特性を調べたところ、充填する酸素量とともに電池容量が増加することが分かった。これは、本電極の電池反応に酸素が関与していることを明確に裏付けている。また、この事実は他の高容量電極材料についても当てはまる可能性があることから、電極材料の新しい設計指針にまで繋がる可能性がある。実際に、銅を含むLi2CuO2についても同様の実験を行ったところ、電池電位の上昇とともに酸素ガスが検出された。したがって、先の結果と符合する。高容量が期待できる1mol以上のLiを含む電極材料における酸素の役割を検討する上で、重要な知見であると考えている。一方、本コンポジット電極の電池特性向上についても十分に達成することができた。とくに、Ni量とともに電池容量が増加することに加え、20サイクル後の放電容量維持率が99%を示した。これは、Li2MnO3にNi置換したことが原因であると考えられる。したがって、CuO共存によってLi2MnO3を微細化させながらNiによるLi2MnO3自身の電気化学的活性を引き出すことができるという点で、この新しい組成は電極材料としても興味深い。 以上、電池反応における酸素の関与と新しい組成を見出せたことから、計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、本研究課題の目的であるCuO共存Li2MnO3の電気化学的活性化機構の解明が当初の計画以上に進んでいる。しかし、困難は予想されるが当初の計画にあった遷移金属および酸素電子の関与について再検討を行う。X線光電子分光法(XPS)によって電子状態観察を行う。その際、第一原理計算による理論的な検証と併用させながら電池反応機構の解釈を試みる。とくに、充電に伴う酸素上のホール生成の有無とともに各原子上の電子数変化に注目する。また、GC-MSによって本コンポジット電極の電池反応に酸素が活物質として関与していること、およびNiを含む新しい組成を見出したが、これまでと異なったプロセスによる試料合成にも取り組む。これまでの共沈法とは異なり、水溶性の高分子を用いる。この方法は金属イオンが高分子内のC=O部との静電的なネットワークを形成させるプロセスであり、より低温での結晶化が期待できる。したがって、本コンポジット中の分散状態や粒子径がこれまでと異なる可能性があり、その電極としての評価を進める。 最後に、それまでの知見に基づき、電極材料としての最適化を進め、優れた電池特性を目指す。その際、Li2MnO3-LiMO2固溶系で実証されている段階的に充電電圧を上げる”Step-wise”法による電池評価を行う。この手法の効果はLi2MnO3固溶体においてよく知られているが、本コンポジットにおいても同様の効果があるのかについて比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に購入予定であったX線光電子分光測定に用いる専用トランスファーベッセは既存の器具で代用できたこと、また酸素ガス発生計測のための器具が安価に購入できたことから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と次年度配分額を合わせた額(\588,768)にて試薬、器具等の消耗品費として使用する予定である。とくに、XPS測定のための消耗品費を想定している。また、出張旅費として使用する計画。
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