研究課題/領域番号 |
25420008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 浩司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40182993)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 皮膜 / コーティング / き裂(割れ) / 剥離 / テクスチャ / 粗面化 |
研究実績の概要 |
近年、固体材料表面に各種機能を付与するために皮膜を施すことが多い。その際、密着強度向上を意図して基材表面に粗面化処理を施すことが多い。また、最近では、レーザ加工等により、基材表面に規則正しいテクスチャリングを施し、さらなる密着強度の向上を図ることも試みられている。しかしながら、皮膜と基材の界面の幾何学的形状は、密着強度のみならず、皮膜内の応力分布にも影響を及ぼし、結果として皮膜の見掛けの強度や皮膜に生ずるき裂のパターンに影響を及ぼすことが予想される。本研究では、これらの影響を定量的に調べることを最終目的とする。 まずは、皮膜と基材の界面の幾何学的形状が界面や皮膜内における応力分布にいかなる影響を及ぼすかを高精度で計算するために、平成25年度に引き続き、連続分布転位法を応用することを試みた。今回は、界面が周期的にうねっている場合に、温度変化によって生ずる熱応力分布を計算する手法を開発した。まずは、半無限弾性体内に等間隔で規則正しく並んだ刃状転位の弾性解を数学的に閉じた形で求めた。界面における境界条件は、界面に相当する曲線上に刃状転位を連続分布させることにより満足させ、特異積分方程式の形に帰着させた。これらの特異積分方程式は選点法に基づき離散化を行い、数値的に解く手法を開発した。数多くの例題の解析の結果、選点を増やすことによる解の収束性は極めて良好であり、高精度の解が求まることが確認できた。 また、機械加工により基材表面に等間隔の溝を切り、プラズマ溶射によってジルコニア皮膜を作製した試験片に引張荷重を作用させることにより、皮膜に生ずるき裂を観察した。皮膜の断面におけるき裂長さを定量的に測定した結果、皮膜に蓄えられるひずみエネルギーと正の相関があることが確認できた。なお、皮膜と基材の界面における剥離も多数観察されたため、今後はその評価法についてきちんと考察する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値計算法については二次元問題に限定されるものの、極めて高精度の手法を開発することができたので、予想以上の進展があったと考えられる。実験については、規則正しいテクスチャを有する基材表面に施した皮膜で引張試験を行うことができたが、皮膜と基材の界面における剥離が予想外に激しかったため、考察が困難であった。総じて上記のような達成度であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 基材が周期的にうねっている際、皮膜内にき裂が存在する場合の高精度の応力解析の手法を、連続分布転位法にて開発する。この場合、き裂も界面の形状と同期して周期的に存在するものと仮定すれば、実現可能性は高い。 (2) 規則正しいテクスチャを有する基材表面に皮膜を施した試験片に引張荷重を与えて、皮膜内に生じるき裂を観察する実験を継続する。その際、界面で剥離を起こさないような方法を模索する。今回は、界面の幾何学的形状が皮膜の割れに及ぼす影響を調べたいので、実用的な形状に拘る必要はなく、テクスチャをある程度大きくして、ブラスティングにより密着強度を高めることが考えられる。また、剥離を起こした場合でも、皮膜内のき裂との違いを明確にしつつ、評価法についてある程度大胆な仮定を置くことによって考察を進めることも考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
プラズマ溶射の業者に皮膜の力学特性(弾性率等)を測定してもらうための予算を計上していたが、業者の都合上、実施できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
基材表面にテクスチャを施す加工やプラズマ溶射によって皮膜を作製するための費用が予想以上に嵩んでいるので、それに充てる。
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