研究課題/領域番号 |
25420012
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水野 幸治 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80335075)
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研究分担者 |
平林 智子 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30566716)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体力学 / インパクトバイオメカニクス / 自動車工学 / 自転車 / 交通外傷 |
研究実績の概要 |
自転車乗員と車のマルチボディモデルから,自動車との衝突部位や自転車の速度によって,自動車と自転車の衝突形態によって頭部が自転車の車体と衝突する場合としない場合を分類した.これらの知見は,自転車乗員保護のための自動車エアバッグやポップアップフードのトリガーを与える衝突センサーに有用であり,現在,特許出願を進めている. 事故データから,自動車のAピラーによる自転車乗員頭部への加害性が非常に大きいとの結論を得た.そこで,自動車自転車乗員頭部のAピラー衝突時のヘルメットによる頭部保護について検討した.衝突速度35 km/hにてAピラーに対する歩行者頭部インパクタ試験を実施した結果,頭部傷害値(HIC)はヘルメット着用で減少したが,3000(重篤な頭部傷害の確率99%)を超えていた.HICの1500(頭部傷害確率50%)は衝突速度26.3 km/hと見積もられた. 頭部インパクタによる有限要素解析を実施した結果,剛体面への自由落下(地上高1.5 m)ではヘルメットのライナーはエネルギーを吸収し,HICもヘルメット非装着の値11142から装着によって1432に減少した.しかし,Aピラーに対する衝突(35 km/h)ではヘルメットのライナーが局所的に変形し,底付きすることで頭部インパクタに高い加速度が発生することが示された.ヘルメットを装着した人体頭部有限要素モデルによる解析では,落下試験,Aピラー衝突ともに頭蓋骨の骨折は発生しなかった.しかし,Aピラー衝突では脳のひずみが大きな値となった. 有限要素解析からヘルメット着用については頭蓋骨骨折無しの脳損傷が発生しうる可能性が示された.これらの結果の妥当性,ヘルメットの衝撃保護性能の向上,およびその評価方法をさらに検討していく必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年の計画は,マルチボディモデルと人体有限要素モデルによって,自転車乗員頭部の保護方法を進めるというものであった.以下,研究の進展状況を項目別に述べる. 1. マルチボディ解析 シミュレーションモデルにより,衝突形態別に頭部の衝突位置を求め,頭部の軌跡を定式化した.これらは自動車の衝突センサーの基礎的な知見となり得るものとなった. 2.頭部インパクト試験 自転車ヘルメットを装着した頭部インパクタに対して,落下試験及び自動車への衝突実験を行い,頭部の傷害値を把握した.ヘルメットは路面への落下に対して設計されており,十分な保護性能を示した.しかし,車への高速度の衝突では頭部傷害値が高く,特にフロントピラーへの衝突では低速度でも高い頭部傷害値を示した.これらにより,ヘルメットの衝撃特性を明確化することができた. 3.人体有限要素モデルによる衝撃解析 ヘルメットを装着した人体頭部有限要素モデルを自動車に衝突させ,検討を行った.この結果,ヘルメットの局所的変形が頭蓋骨骨折をもたらすことや,ヘルメットの応力分散効果によって頭蓋骨骨折が発生しない状況で脳損傷が発生しうるなど新たな知見が得られた.バイオメカニクスの点から,これらの頭部傷害の評価手法を新たに考慮する必要が生じている.また,ヘルメットの性能限界が明らかになったことから,フロントピラーの剛性低下など自動車側の対策が必要との結論を理論的に導いた. 以上のように,平成26年度の計画通りに,研究は順調に進んでいる.上記に加えて,研究計画にはなかったが,人体全身有限要素モデルを用いた自転車乗員と自動車の衝突解析を進めており,自転車乗員の挙動や傷害の特徴が明らかになりつつあり,歩行者事故との違いや傷害発生メカニズムの違いを明確にしつつある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は「自転車ヘルメットの保護性能の明確化と設計方法の確立」にあるが,現時点での研究において「自転車ヘルメットは路面への頭部落下に関しては傷害防止には非常に有効であるが,自動車との衝突時の保護性能は限定されている」という結論に至っている.平成27年度は研究の最終年度として,自転車ヘルメットの設計指針の確立を目指して,以下の研究課題を進めていく. 1.マルチボディ解析による自転車乗員の挙動の把握では,自転車乗員の体格を変えて,特に子どもについて,衝突形態別の頭部衝突の有無,傷害予測を明確化していく.また,人体の全身有限要素モデルを用いた自動車との衝突解析も可能となったため,詳細な挙動や頭部の車体への衝突の速度や角度を明確化する. 2.人体有限要素モデルの解析では,シェルを有するヘルメットが応力分散効果があり,ヘルメット着用については頭蓋骨骨折無しの脳損傷が発生しうる可能性が示された.これらの脳損傷の評価方法を明確化する. 3.自動車の衝突および路面への落下の両衝突形態を考慮しつつ,自転車ヘルメットのライナーの衝撃保護特性,シェルの剛性など衝突時の頭部保護のためのエネルギー吸収性能要件を明確化する.本研究の現在までの成果によって,自動車のフロントピラーの剛性が非常に高く,自転車ヘルメットのみでは自転車乗員の頭部保護が困難であることが明らかになってきいる.そこで,自転車ヘルメットの設計指針に加えて,自動車のフロントピラー構造や頭部保護エアバッグについても取り組む.フロントピラー構造については,自動車の客室保持性能を保ちつつ,自転車乗員や歩行者も保護できる最適化構造を模索していく.
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