研究課題/領域番号 |
25420013
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
足立 忠晴 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20184187)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | エポキシ樹脂 / 粒子充填複合材料 / 力学的特性 / 架橋密度 / 強度 / 破壊靱性値 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
複合材料の力学的特性を測定し,架橋密度などをパラメータとする母材樹脂の内部構造と力学的特性との相関について考察を行った.240 nmの粒径の球状シリカ粒子を体積含有率20%で充填し,エポキシ樹脂コポリマーを硬化剤に対して過剰に加えた非化学量論比で硬化させて,様々な網目密度を有するエポキシ樹脂を母材とする複合材料を作製した.作製された複合材料の評価:作製されたシリカ充填エポキシ複合材料およびエポキシ樹脂の熱粘弾性特性を220 Kから470 Kの温度範囲で測定し,作製された複合材料のガラス転移温度および架橋密度を同定した.その結果,非化学量論比で硬化させることで架橋密度が2740から490 mol/m3,ガラス転移温度が440 Kから350 Kのエポキシ樹脂およびシリカ粒子充填複合材料を得ている.非化学量論比で硬化した複合材料の粘弾性係数,強度,破壊靱性値の測定を行い,母材樹脂の架橋密度とそれらの力学的特性の関係を明らかにした.その結果,ガラス状態における粘弾性特性は架橋密度の影響をほとんど受けず,従来から知られている複合則で十分に説明でき,母材樹脂の内部構造に影響をうけないことがわかった.化学量論比で硬化された母材樹脂にはシリカ粒子を充填することで強度,破壊靱性値も向上するが,架橋密度が低い,すなわち疎なネットワーク構造を有する母材樹脂の場合,粒子がむしろ力学的特性を低下させる欠陥として作用することが明らかとなった.粒子を充填することで強度が大きくが向上しないが,破壊靱性値は母材樹脂より1.6倍程度まで増加することを明らかにした. また動的力学的特性の測定のために,動的圧縮応力-ひずみ線図を測定するためのスプリットホプキンソン棒試験装置および動的破壊靱性値を測定するための動的ダブルトーション試験装置を作製し,その測定値の妥当性を検証し,実際に測定に使用できることを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の推進に最も重要となる広範囲の架橋密度,すなわち異なるネットワーク構造を有するエポキシ樹脂を作製することに成功した.さらに基本的な力学的特性の測定を行い,力学的特性,特に強度,破壊靱性値に対して,架橋密度に強く依存していることが判明した.一般に粒径が小さくなると強度,破壊靱性値が向上することが知られているが,本研究において,必ずしも粒径が小さければ向上せず,母材樹脂の内部構造によってはナノ粒子を充填してもかえって強度,破壊靱性値が低下することもあることを示した.さらに化学量論比よりもわずかにコポリマーを過剰に加えた状態で硬化させることが,一般的に行われている化学量論比硬化の複合材料よりもかなり大きな強度および破壊靱性値を得ることを明らかにしている.さらに得られた試験結果から,ある母材の架橋密度より高い場合には,粒子充填効果により母材の特性よりも向上し,それ以下の架橋密度の母材樹脂では粒子が欠陥とさせ母材の特性より強度および破壊靱性値ともに低下することを明らかにした.以上のことから,充填粒子と母材の架橋密度が密接に関係し,それが力学的特性に大きく関係していることを明確に示した.また動的特性を測定するための2つの試験装置および測定システムを完成させている. 本年度までに,充填粒子の粒径だけでなく母材樹脂の内部構造が力学的特性に大きな影響を及ぼすことを明らかにした,さらに次年度においては,測定された力学的特性に基づき考察を深めることで,強度および破壊靱性値に対する複合則を構築することを試み,さらにそれを裏付ける実験データを取得する. 以上のことから今年度の研究成果は十分に達成できたと考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに,シリカ粒子充填エポキシ樹脂複合材料において,粒子の粒径と母材樹脂の内部構造の干渉効果が力学的特性に大きく影響することが明らかにしている.これを踏まえて,次のような課題について検討を行う.粒子充填と母材樹脂の内部構造の関係をより定式化する,すなわち強度および破壊靱性値に対する複合則を提案する.これまで得られているデータとともに,さらに複合則の妥当性を検証するために実験を行い,架橋密度で表される樹脂内の内部構造と粒子充填の関係をより詳細に考察を行うものとする. さらに平成26年度において作製した動的ダブルトーション試験装置および測定システムにより,動的破壊靱性値の測定を行い,動的破壊靱性値に及ぼす架橋密度の効果,粒子充填の効果などを明らかにする.また試験後の試験片の破面観察を行い,破面の性状と架橋密度の関係についても考察を行う. また平成27年度に実施する予定としている力学的特性の温度-時間依存性に及ぼす架橋密度の効果,粒子充填の効果について実験により考察を行う. 以上の3年間の研究成果を平成27年度末にまとめるものとする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究費の使途として,動的試験装置であるダブルトーション試験機および測定システム,スプリットホプキンソン棒法試験装置および測定システムの構築のために使用した.これらの装置にかかる費用は当初より予定されていた.しかし,装置に多くの時間を要したために,多くの試験片材料の購入する費用が予定されていた額よりも少なくなった.次年度に学会発表を予定していることから,次年度への繰り越し額とした. なお試験片材料の購入額が少ないものの,十分な成果を得ることができた.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度において,シリカ充填エポキシ樹脂複合材料の力学的特性を引き続き測定するために試験片の材料購入費に充てられる.特に力学的特性の温度,時間依存性を測定するために試験片材料購入費およびそれに伴う準備のための消耗品費に充てられる. また,3年間の研究成果をまとめ,国内外の学会で発表するために,旅費に充当される. このため当初,予定されていた研究費より多くの額を準備する必要があった.
|
備考 |
本研究の内容に関連した発表をThe Fourth Asian Conference on Mechanics of Functional Materials and Structuresにて行い,Excellent Presentation賞を受賞した.
|