研究課題/領域番号 |
25420014
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
稲葉 忠司 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70273349)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 脊椎固定術 / 隣接椎間障害 / 力学的評価 / 6軸材料試験機 / 脊椎不安定性 / 体内固定具 / 脊椎疾患治療 |
研究実績の概要 |
身体運動の軸機関および支持機関である脊椎の疾患に対する診断・治療において,脊椎の剛性を把握することは,適切な治療方針・手術手技を決定する上で極めて重要である.そこで本研究では,脊椎の剛性を力学的観点より客観的・定量的に評価することを目的とし,複雑な脊椎変形挙動を6軸材料試験機を用いて実験的に調査する.特に,本科研費申請期間においては,損傷や疾患により生じた脊椎不安定状態を解消するための脊椎固定術において,損傷椎間への体内固定具の装着が隣接椎間にどのような影響を及ぼしているのかについて焦点を絞って研究を実施する. ここでの力学試験には,平成16・17年度科学研究費若手研究(B)の補助を受け開発した脊椎強度測定用6軸材料試験機を使用する.この試験機は,6組の垂直直動型アクチュエータによるパラレルメカニズムとエンドエフェクタに内蔵した荷重-モーメントセンサにより,任意の自由度において変位および荷重制御下での精密な力学試験が可能である.また,平成25年度に実施した改良により,多椎間脊椎を対象とした力学試験において,個々の椎体の変形情報を取得することが可能である. 上述の試験機を活用し,平成26年度は,イノシシおよびシカ屍体の多椎間脊椎を用いた力学試験を実施した.具体的には,正常モデル,種々の疾患を想定した損傷モデル,および損傷モデルに体内固定具を装着した固定具装着モデルの各種試験体を製作し,製作した試験体に対して前屈,後屈,側屈,および回旋のそれぞれの運動に対応したモーメントを負荷し,これらの負荷に対する隣接椎間の可動域を計測した.その結果,多椎間全体の変位量を規定した試験において,固定モデルの隣接椎間可動域および最大トルクは損傷モデルに比べ著しく増加することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的である「脊椎固定術における隣接椎間障害発生メカニズムの力学的解明」には,多椎間脊椎試験において各椎体の3次元変形挙動を十分な精度で計測し得る位置情報計測システムの構築が不可欠であった.このシステムに関しては,平成25年度に,本予算を活用して試験機ジョイント部の改良を行うことにより実現した. 平成26年度は,改良した試験機を用い,イノシシおよびシカ屍体の多椎間脊椎を用いた力学試験を実施した.その結果,多椎間全体の変位量を規定した試験において,固定モデルの隣接椎間可動域および最大トルクは損傷モデルに比べ著しく増加することがわかった.以上の成果は,隣接椎間障害の発生メカニズムを検討する上で重要な知見であると考えられ,よって,おおむね順調に進展していると判定した.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,平成26年度に引き続き,以下の計画・方法に基いて脊椎変形挙動の力学的評価に関する研究を実施する. 力学試験を行うための試験体として,イノシシおよびシカ屍体脊椎を用いて,正常モデル,種々の疾患を想定した損傷モデル,および損傷モデルに体内固定具を装着した固定具装着モデルを製作する.この試験体の製作は,連携研究者であり,脊椎疾患およびその治療に関して豊富な知識を有する整形外科専門医が担当する.製作した試験体に,前屈,後屈,側屈,および回旋のそれぞれの運動に対応したモーメントを負荷し,これらの負荷に対する試験体の変形挙動を計測する.この力学試験は,研究代表者および研究協力者(研究代表者の研究室に所属の大学院生)が行う.この各々の運動を想定したモーメント負荷試験により,椎間板損傷や椎間関節損傷等の損傷の種類やその程度が脊椎の変形挙動にどのような影響を及ぼすのかについて明らかにするとともに,体内固定具の装着が,損傷により生じた不安定性の解消にどの程度寄与しているのかについて検討する.特に,本科研費申請期間は,ここでの力学試験において,多椎間脊椎を用いた試験体の変形挙動に注目し,現在臨床現場において定性的・経験的に知られている体内固定具を装着した際の隣接椎間への影響について定量的に調査する.
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