研究課題/領域番号 |
25420015
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田中 拓 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80236629)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境強度 / 形状記憶合金 / マイクロアクチュエータ / 水素環境 / 疲労 |
研究実績の概要 |
本研究は,生体内や流体機械などの低濃度水素環境中での応用が期待されているTiNi形状記憶合金細線マイクロアクチュエータについて,長期使用の間における環境劣化挙動とそのメカニズムを実験的に解明することを目的としている.当該年度においては,前年度に作製した,水溶液環境中で極細線の静的引張試験を行える試験システムと疲労試験システムを用いて,直径0.7mmと0.1mmの細線に対して一定応力下と低ひずみ速度下での遅れ破壊試験,および種々の条件における疲労試験を前年度から継続して行った.ただし,試験の効率向上のため,疲労試験システムを新たにもう一式構築した. NaOH水溶液中で水素チャージを行った高水素濃度では,静的引張強度も疲労寿命も乾燥大気中に比べて低下するが,NaOH溶液中や純水で水素チャージを行わない低水素濃度では,静的引張強度は低下しないのに対して疲労寿命だけが乾燥大気中よりも低下した. 高水素濃度の場合,疲労寿命を水素チャージ時間で整理すると,疲労寿命が長くなる低応力振幅では同じ水素濃度の静的な遅れ破壊の寿命にほぼ一致し,時間依存型破壊といえることが明らかとなった.一方,高水素濃度でも応力振幅が高く疲労寿命が短い領域においては,遅れ破壊の寿命より疲労寿命のほうが短くなった.これは,疲労寿命が比較的短い場合は水素環境の影響を受ける時間が短くなり,応力繰返しによる疲労劣化の方がより大きく影響するためと考えられた.また,乾燥大気中と純粋中では疲労限の存在が実験結果から示唆されたが,NaOH水溶液環境では疲労限が認められない. 破壊の微視機構を検討した結果,NaOH水溶液中で水素チャージを行った高水素濃度では細線表面から水素が侵入することによって表面に明らかな脆化層が形成され,時間とともに脆化層が厚くなるのに対し,低水素濃度では明らかな脆化層が形成されないという違いが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,前年度の方針として記載した通り,疲労試験システムを新たにもう一式構築することで,試験効率を向上させることができた. 前年度までの直径0.7mmの細線に対する試験結果に加え,新たに直径0.1mmの極細線も用いて種々の条件下における遅れ破壊試験と疲労試験を実施できた.その主な結果として,高水素濃度下における低応力域の寿命が時間依存型であることを明らかにでき,一方の高応力域では水素脆化と繰返し応力による疲労劣化の両方が作用し,しかもシナジー効果が存在することも示すことができた. さらに前年度の課題であった疲労限の存在についても知見を得ることができた. また,破面観察等による破壊の微視メカニズムの検討も概ね計画通りに進行している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行っている水素脆化き裂の発生・進展挙動の微視観察に加え,水素化物と変態マルテンサイト相の計測に着手し,水素吸収による劣化の微視メカニズムの解明を目指す.それらの結果とこれまでの試験・観察結果をもとに,水素拡散とき裂の破壊力学挙動との相互作用によるシナジー効果を考慮した破壊モデルを構築し,任意寸法・形状のTiNiマイクロアクチュエータに対する寿命評価法を提案する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究実施に必要かつ十分な支出を終えた段階において,受領額に対して少額が余ったが,不必要な物品購入をせず次年度しようとした方が研究の遂行上,また補助金の不必要な使用を避ける社会的責任上,有意義と判断したため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は少額のため次年度の受領予定額の使用計画に大きな変更はなく,消耗品費として使用する予定である.
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