研究課題/領域番号 |
25420017
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
塩澤 大輝 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60379336)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 疲労 / 非破壊評価 / 放射光 / 回折コントラストトモグラフィ / 多結晶金属材料 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,結晶粒の3Dマッピングが可能な回折コントラストトモグラフィ(DCT)を構築し,結晶粒単位で疲労損傷評価を行う手法を開発することである.今年度は,データ解析手法の改善,および同手法を用いた高サイクル疲労損傷評価に関する実験的検討を行った. DCTではX線の回折現象を用いて,結晶粒の形状や方位を調べる.サンプルを回転させながら測定を行うと,回折スポットが,ある角度範囲にわたって現れる.これまでは,この回折スポットの出現角度範囲を回折の拡がり角として算出し,疲労損傷評価に用いてきた.回折の拡がり角は,塑性変形や低サイクル疲労の繰返し数とともに増加することが明らかになっているが,サンプルの回転軸に対する回折面の角度の影響を受けることが分かった.そこで,回折の幾何学的条件を用いて回折面における全方位差(Total misorientation: β)を算出することを検討した.回折の拡がり角からβに変換したところ,結晶の幾何学的配置の影響を除去できることが分かった. DCTの疲労損傷評価の実験的検討では,高サイクル疲労試験過程のサンプルに対して,本手法の適用を試みた.疲労試験機は2013年度に開発した微小サンプル用試験機を,アクチュエータを改良して使用した.高サイクル疲労におけるDCT観察の結果,回折面における全方位差βが繰返し数とともに増加していることが分かった.低サイクル疲労と比較するとβの変化量が小さく,βのヒストグラムの分布のばらつきが小さいことが分かった.結晶粒の回折面ごとに分類してβの変化を調べたところ,結晶のすべり系の回折面において最もβの変化が現れていることが分かった.これは,すべり面における転位密度の増加に伴って回折面が湾曲していることを反映していると考えられ,βを用いて転位密度の変化を評価可能であることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ整理においては,回折面の全方位差βを用いることにより,疲労損傷に伴う結晶粒内の変化を評価できることが明らかとなった.また実験的検討においても,2013年度に開発した,回折コントラストトモグラフィの測定が可能な微小サンプルの疲労試験を改良し,高サイクル疲労が行えるようになった.このように疲労損傷を反映したパラメータが明らかになったこと,および各種疲労試験が可能な試験機が完成したことにより,両者を組み合わせた疲労損傷評価に関する実験的検討が可能となった. 以上のように回折コントラストトモグラフィを用いた疲労損傷評価法の開発に必要な準備が整っており順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,回折コントラストトモグラフィ測定が可能な微小サンプルに対して疲労試験を行うことができる小型試験機を開発した.またデータ解析では,回折面の全方位差βを算出して,回折面の転位密度を評価できることを明らかにした. 2015年度では,これらを組み合わせてき裂発生過程における疲労損傷評価について検討を行う.具体的には,比較的緩やかな切欠きを導入したサンプルについて,高サイクル疲労過程における回折コントラストトモグラフィ測定を行う.切欠きを導入することにより,き裂発生箇所を絞込み,き裂が発生する結晶粒を重点的に調査する.特にき裂が将来的に発生する結晶のβの変化に着目し,βとき裂発生の関係について検討を行う.また,3次元マッピング手法と非破壊評価手法の特徴を活かしてき裂が発生する結晶粒とその周囲の結晶との相違点および相互作用について議論する. これらの実験的検討を通して,回折コントラストトモグラフィを用いた疲労損傷評価法の有効性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
試験機の改良に伴い,試験片の形状に変更を加えた.当初の予定よりも発注が遅れ,試験片の納品が当該年度に完了する見込みがなかった.このため,試験片を2015年度に葉註することにしたため,119,797円を繰り越している.
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように,2015年度ではき裂発生過程を中心とした観察を行う.繰り越し分を合わせてこれらの試験片の作製,ならびに実験のための消耗品を中心に研究経費を使用する計画である.
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