研究課題/領域番号 |
25420018
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
清水 憲一 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50294434)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | チタン膜 / 疲労き裂 / 結晶方位 / EBSD法 / 疲労損傷 |
研究概要 |
本研究では,真空保持焼なましを行った30mm×30mm の純チタン膜材を150mm×30mmのS45C鋼の板材に,圧延方向と負荷方向がそれぞれ平行および垂直となるように貼り付けた二種類の試験片を用いて疲労試験を行った.同時に,疲労試験前後においてEBSD 法を用いてチタン膜材の結晶方位を測定し,各点(100×128=12800点)の方位行列データを得た.さらに,得られた方位行列データから疲労試験によって生じた結晶方位変化,それぞれの結晶の回転軸の変化などの定量的な評価を行った. その結果,焼なまし後もチタン膜材には圧延異方性が残っており,圧延方向と直交方向に負荷した場合の方が,疲労き裂が発生しやすいことが分かった.この傾向は,圧延異方性によるシュミット因子の差に起因することが予想された.また,チタン膜の疲労き裂は,すべり線と平行に生じ,すべり面分離によって進展することが分かった.この際に作動するすべり系はほぼ錐面すべりであり,臨界分解せん断応力が最も小さく,通常,チタンの主たるすべり系とされる柱面すべりとは異なるという興味深い結果が得られた.さらに,疲労損傷が著しいと予想される箇所では,すべり面法線方向・すべり方向いずれにも直交する軸に対して大きな結晶方位差が生じていることが分かった.これは刃状転位によって生じた結晶格子の湾曲,すなわちせん断ひずみを表していると予想される.すなわち,EBSD法によって得られた結晶方位差とその方向が分かれば,疲労き裂周辺のせん断ひずみの定量的評価が可能になると思われる.このようにして,疲労き裂前方の局所的なひずみの分布が分かれば,チタン膜材の疲労き裂進展速度や進展方向の予測が出来るようになり,信頼性向上に寄与することが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,平成26年度以降に実施を予定していた「II.疲労に伴う純チタンの損傷評価」から実験を始めた.これは平成25年度に予定していた「I.純チタンの静的変形と結晶方位差の関係」について,申請時に考えていたよりも優れた実験装置を使用できる可能性が浮上したためである.ただし,この装置の完成・納入は平成26年度以降になることが確実だったので,平成26年度に実施を予定していた内容を前倒しして実施することとした.その結果,平成26年度に予定していた実験については,予想していた以上に実験が進み,実験結果の解析についても,おおむね期待していた内容の結果が得られた.ただし,この結果を学術的に検討するためには,平成25年度→平成26年度に変更した「I.純チタンの静的変形と結晶方位差の関係」から得られることが期待される知見が必要不可欠であり,研究全体の達成度としては,おおむね予定通りと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
実験には厚さ100μmおよび50μmの純チタン膜を用いる.これらの薄膜材に静的に応力を負荷しながらEBSD計測を行うために,SEMの試料室内で薄膜材に負荷を与える装置を開発し,①負荷前,②引張負荷時,③除荷後にEBSD測定を行う.それぞれの状態について得られた結晶方位のデータから,引張や除荷に伴う結晶方位の変化(回転)を求める.また,それぞれ①,②,③のときに得られた方位行列から,局所結晶方位差の大きさと方向を評価し,ひずみ分布との対応を調べる.なお,純チタンは表面に酸化層が形成されやすく,EBSD測定を正確に行うためには,この酸化層を除去する必要がある.ただし機械的研磨を行うと,加工層の影響が生じやすく,化学的研磨の場合は,新たに酸化層が形成されるなどの問題が起こる.そこでイオンミリングによって,材料に与えるダメージを最小限にとどめながら,表面酸化層のみを除去し,角度1度以下の結晶方位差を高精度に計測する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に,他大学への異動の可能性が高まったため,異動先の実験環境に適合するように,新たに導入する実験装置の再検討を行った.その結果,申請時に考えていたよりも優れた実験装置を使用できる可能性が浮上したが,この装置の完成・納入は平成26年度以降になることが確実だったので,現有の装置で実施可能な平成26年度の実験内容を前倒しして実施した. 走査型電子顕微鏡試料室内で,静的に荷重を負荷できる装置の開発と購入に対して,予算を申請する予定である.
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