本研究では, EBSD法を用いて純チタン膜材の疲労き裂周辺の結晶方位を測定した.得られた方位行列から,結晶方位差の回転軸をベクトルとして評価し,疲労き裂進展の際に活動したすべり系を推定した.そして,純チタン膜材の圧延集合組織が,疲労き裂進展に及ぼす影響について考察した.以下に得られた主な結果をまとめる. (1)純チタン膜材では,c軸が圧延方向と直交方向に約30°傾いた圧延集合組織を示し,荷重軸が圧延方向と平行な試験片(RD材)の方が,圧延方向と直交する試験片(TD材)よりもき裂進展速度が速かった. (2)結晶方位差の回転軸ベクトルより,活動したすべり系を予測した.予測した結果は,疲労き裂周辺で実際に観察されたすべり線の方向と一致しており,荷重軸が圧延方向と直交する試験片(TD材)では底面すべりが,平行な試験片(RD材)では柱面すべりが生じていた. (3)荷重軸が圧延方向と直交する試験片(TD材)では底面すべりのみが活動したのに対して,平行な試験片(RD材)では2つの柱面すべりが同時に活動していた.すべり面が1つで,底面すべりの臨界分解せん断応力は柱面すべりに比べて高いことから,TD材のき裂進展速度が低下したと考えられる. (4)荷重軸が圧延方向と直交する試験片(TD材)では,底面すべりに沿ってき裂が進展し,すべての場所で凹凸の小さい破面であった.これに対して,平行な試験片(RD材)では凹凸が大きい箇所と小さい箇所がみられた.RD材で,凹凸の小さい破面が観察された箇所では,活動した2つの柱面の間に存在する錘面に沿ってき裂が進展していた.
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