平成27年度は,まず粉末を母材表面へ効率的に含有させる粉末固定化手法の検討を行った.また,EDSやXPSを用いて,深さ方向の粉末の溶込み分布等の検討を行った.さらに硬度試験や摩擦摩耗試験を行い,改質層の硬度や摩擦摩耗特性に及ぼす粉末溶込量の影響を検討した. 1.溶込量に及ぼすAg膜厚の影響:粉末の飛散抑制を目的とし,母材表面に塗布した粉末層の上に粉末飛散抑制膜として昨年度までより熱い厚さ0.5~5μm程度のAgを成膜して電子ビーム照射処理を施した.その結果,Ag膜厚の増大と共に粉末の溶込量が増大することがわかった.また,EDS,XPS両分析結果から母材へAgが溶け込まないこともわかった.以上の結果から,飛散抑制膜として厚さ5μmのAg膜を粉体層上へ被覆することで,大幅な溶込み量の増加を実現できることがわかった. また,Cr及びNi粉末の場合では改質層内でほぼ均一に粉末成分が溶け込んでいること,W粉末では一部の粒子が粒子のまま改質層内に存在することがわかった.これらの改質層の硬度は母材よりも高硬度となっていることがわかった.また,EBSD分析の結果,結晶粒が微細化し,一部で粒径1μm以下の超微細結晶が生じていることもわかった. 2.摩擦摩耗特性:摩擦摩耗試験の結果,Ag膜を厚くした試料ほど摩擦係数が低くなることがわかった.これはAg膜を厚くすることで,粉末の溶込み量が増加し,硬度が増加したためと考えられる.また,摩耗については,未処理材に比べて全ての粉末の場合で摩耗量が1/10程度と大幅に耐摩耗性が向上した.この要因として溶込量の増加や改質層領域で比較的均一な硬度増加が生じたためであると考えられる. 以上の検討を通して,電子ビーム処理による粉末溶込量の改善を達成し,硬度及び摩擦摩耗特性に優れた様々な製造機器開発分野や機械部品分野に応用できる新しい表面改質技術の開発の端緒を開けたものと考えている.
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