本研究では炭素繊維強化熱可塑性樹脂(熱可塑性CFRP)積層板のせん断切断メカニズムを実験と数値解析(FEMと粒子法)を通して解明するとともに,切断条件(切断刃の形状,ワーク温度,クリアランスなど)の最適化を行い,以下の知見を得た: ①切断時の加工損傷はバリ(理想切断線からの凸部)と割れ(理想切断線からの凸部)およびき裂(マトリックスクラックと繊維破断)からなる,②熱硬化性CFRP積層板と異なり,じん性の高い熱可塑性CFRP積層板では層間はく離はほとんど発生しない,③加工損傷は主としてせん断応力によって発生するが,クリアランスが加工損傷パターンに及ぼす影響は小さい,④最適な切断温度(ガラス転移点近傍)とクリアランス(板厚の約5%)が存在する,⑤最適な刃形状(シャー角と刃先角)が存在する,⑥一方向板の場合,繊維方向に対する切断角度によってせん断強度が変化するが,クロスプライ積層板などの場合,切断角度によるせん断強度の差異は小さい。 以上の知見が得られたことにより,不均質・異方性・積層構造を有するCFRP 積層板の複雑なせん断加工メカニズムが実験と数値解析を通して系統的に解明できた。また本研究から解明されたせん断加工メカニズムと最適加工条件から,難加工材であるCFRP 積層板の高速・低損傷せん断加工技術の確立のための学術的基礎が確立できた。さらに,CFRP積層板の加工に要するタクトタイムが短くなることにより,自動車部品産業への適用が期待される。
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