本研究では,転がり疲労によるセラミックス被覆鋼での界面はく離発生に着目し,その寿命を評価パラメータとした密着強度評価の新手法開発を目的とした.本年度は,昨年度に引き続き,転がり疲労によるセラミックス薄膜の界面はく離発生寿命と密着強度との関係を調べた.基材には炭素工具鋼を使用した.セラミックス薄膜には,昨年度までのCrAlN薄膜に加えて,CrN薄膜,TiAlN薄膜も使用した.各被覆鋼に筆者らが開発した成膜後レーザ熱処理法を適用し,レーザ出力を種々変化させて,各被覆鋼毎に密着強度,膜硬さの異なる試験片を作製した.また,これらの被覆鋼に対して転がり疲労試験を実施し,それぞれの界面はく離発生寿命を調べた.スクラッチ試験により得られた各薄膜の密着強度は,大きいものから,CrN,CrAlN,TiAlNの順番であったが,界面はく離発生寿命もこれと等しい順番となり,両者に定性的な対応関係が認められた.また,CrAlN被覆鋼とTiAlN被覆鋼について,レーザ出力に対する界面はく離発生寿命の変化を調べたところ,スクラッチ試験結果と界面はく離発生寿命の間に相関関係が認められた.また,レーザ出力に対する界面はく離発生寿命の変化は,レーザ出力に対する密着強度の変化に比べて明確であることもわかった.スクラッチ試験では,測定時に基材の塑性変形が生じ,測定結果に本来の界面強度が反映されにくい場合があるが,小荷重を繰返し負荷する転がり疲労試験では,塑性変形の影響が小さく,界面強度がより強く結果に反映されたものと考えられた.過剰な出力でのレーザ照射により膜硬さが低下し,それが界面はく離発生寿命に影響を及ぼす場合など,スクラッチ試験結果と界面はく離発生寿命の間に対応関係が認められない場合もあったが,本研究により,転がり疲労による界面はく離発生寿命をパラメータとした密着強度評価の可能性が示された.
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