研究課題/領域番号 |
25420029
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 寛 八戸工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90179242)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 懸濁物 / 方向制御 / 電界 / 移動電界 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究で,多相電圧印加によってカーボンナノチューブ(CNT)と紫外線硬化性樹脂の懸濁物中のCNTを一方向に配列した.一般に電界印加によって作製されるCNT/樹脂複合材のサイズは電極の間隔によって制限される.当該研究では,多重電極に多相電圧を印加し,未硬化のカーボンナノチューブと紫外線硬化性樹脂の懸濁物に移動電界を印加することによりこのサイズの制限を外せることを実験的に実証した. 実験には細長い24本の電極を平行に置いた多重電極を使用した.その多重電極の上にカバーグラスを置き,さらにその上にCNTと紫外線硬化性樹脂の懸濁物を滴下した.細長い電極8本を一組にして隣り合う電極と位相差が45°の多相矩形波電圧を印加し,懸濁物に移動電界を印加した.この移動電界印加により懸濁物中のCNTを電極の間隔より広い範囲で一方向に配列させた. 本研究ではどの電極も接地していない.懸濁物中に作用する電界の強さはもちろん,方向も周期的に変化する.実験に先立って理論的にCNTの方向を予想し,実験条件を決定した.2次元有限要素法を用いて電圧印加の各ステップにおける懸濁物中での静電界を求め,求めた静電界を申請者が既に提案しているモデルに代入し,移動電界下におけるCNTの配列方向とCNTに作用するモーメントの最大値を求めた.このようにして,懸濁物中のCNTが概ね一方向に配列する実験条件を決定した. 購入したCNTを紫外線硬化性アクリル樹脂に重量含有率が0.1および0.2wt%になるように加え,10分程度超音波処理を行い,CNTと紫外線硬化性アクリル樹脂の懸濁物を作製した.懸濁物に移動電界を印加してCNTを一方向に配列させ,10分経過後に懸濁物に紫外線を照射し,樹脂を硬化させ,CNT/紫外線硬化性樹脂複合材を作製した.試験終了後,光学顕微鏡を使用して複合材中のCNTの配列を観察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で使用する装置の構成は①移動電界を発生させるための多相電圧発生部および②移動電界をCNTと未硬化樹脂の懸濁物に印加するための多重電極部分からなる.②では直線状の電極が平行に置かれる. この①と②について平成26年度の改善点を述べる.①については,印加できる電圧を0~300Vから±300Vに変更した.発生させる多相電圧の周波数も平成25年度の1kHzから50kHzに向上させた.② については,業者にガラス板上にプリント基板を作製する手法でもって多重電極を作製してもらい,精度の高い多重電極を得た.これらの改善により,研究実績の概要に述べたように,カーボンナノチューブ(CNT)と紫外線硬化性樹脂の懸濁物中のCNTを広い範囲で一方向に配列できた. しかし,当該研究の最終的な目標である電気的な特性の測定について公表できるデータは得られていない.予備的な実験で,作製したCNT/紫外線硬化性樹脂複合材は,母材である樹脂に比べ高い電気伝導性を有することは確認している.しかし,一般にいわれるCNT含有率の増加とともに電気伝導性が向上する傾向を今回作製した複合材は示さない.しかし,予備的な実験は系統的に行ったものではなく,実験条件をそろえるための改善の余地は十分に残されている.実験手順の見直しでこの問題を解決できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,移動電界を利用して作製する一方向分散CNT/紫外線硬化性樹脂複合材に関し,次の三つを目標に実験を行う.① 実験プロセスを見直し電気的に安定した複合材を作製すること,② 薄板をより薄くすることと,③ より少量のCNTの添加で導電性を持たせることである.当該研究で提案する手法が確立すれば,電気伝導性と光透過性を持った薄板が容易に作製できると考えている.実際,予備的な実験で作製した一方向分散CNT/紫外線硬化性樹脂複合材は,光透過性を持ちながら樹脂に比べ高い電気伝導性を有している.電気伝導性と光透過性の両方を有する薄板は,ソーラー発電に必要 な技術であり,近年その研究がさかんになされている.他の方法に比べ,当該研究で提案する手法は原理的により少量のCNTで電気伝導性を薄板に持たせることができる. 平成28年度は,以上の研究のまとめを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時の購入物品の見積額に比較して,競争入札により価格が下がったことにより差額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
当初の申請時の経費についての使用計画の変更はない.差額については,実験遂行に必要な消耗品購入に充てる計画である.
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