研究課題/領域番号 |
25420037
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
西田 真之 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80332047)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | X線応力測定 / 繊維強化高分子材料 / 極低温その場測定 |
研究実績の概要 |
現在,炭素繊維強化高分子材料の製作を行い,母材であるポリアミドの残留応力測定の基本的測定方法の確認を終了した.平成24年度は炭素繊維強化高分子材料の強化繊維(カーボン繊維)の測定に取り組んでいる.これまでの測定により,以下の新たな解決すべき知見が得られている. 1)炭素繊維強化高分子材料は母材の強度には期待せず,強化繊維である炭素繊維を保持固定するためだけの存在である.したがって,直接外力を負担する炭素繊維の応力状態を調べることが重要である.現在のところ,炭素繊維からの回折線ピークの位置はポリアミドとは異なる角度に出現しており,X線による応力測定を行うことのできる可能性が高い. 2)炭素繊維のX線的弾性定数を測定するために,炭素繊維の機械的な弾性定数の測定が必要である.このため,引張試験をおこない弾性定数の実験測定に取り掛かっている.しかし,測定結果はメーカが発表している材料物性値とは一致せず,引張試験の手法そのものを最検討中である.繊維を固定する接着剤に測定結果が大きく依存することが確認され,接着剤をアクリル系からエポキシ系に変更することで良好な試験結果が得られつつある. 3)冷却装置について当初予定していた液体窒素吹付け装置で本実験におけるシステムではいくつかの不具合があることが判明している.このため,本年度にヘリウム循環方式の極低温冷却装置(クライオスタット)を購入し,サンプルを15Kまで冷却することに成功している.今後はこのクライオスタットを使用して冷却実験を行う予定である.これらの知見を元に,繊維強化高分子材料(FRP)の母材および強化繊維双方の応力測定に役立てる予定である. なお,これらの研究成果は平成27年度内の国内発表2件,日本国外での国際会議に参加して発表する予定が3件となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<目標>製作した試料内の繊維および母材それぞれの応力評価を行うために,小型の引張試験装置をゴニオメータ上に設置し一軸引張の状態でX線応力測定を行う.その際,液体窒素を用いた低温冷却装置を使用し,サンプルを冷却することで温度環境を実現する. <現状> 1)測定のための基本条件について:すでにポリプロピレンのX線的弾性定数は測定済みで,現在,炭素繊維のX線的弾性定数を測定調査中である.炭素繊維に対するX線応力測定の諸条件が出た後に常温測定,冷却測定,高温測定の順に測定を進める. 2)冷却装置について:当初予定していた液体窒素吹付け装置で本実験におけるシステムではいくつかの不具合があることが判明している.まず,各メーカの製品を調査した結果,液体窒素を噴き付ける機構の冷却装置ではサンプルの温度をフィードバックする機能がないため,試料に対して一定温度の冷却風を吹き付けることで温度が変化する可能性があること.さらに冷却領域が約2mm直径となり,サンプルの大きさに比較して冷却領域が小さく,不均一な冷却になる恐れたある事などである.このため,本年度にヘリウム循環方式の極低温冷却装置(クライオスタット)を購入し,サンプルを15Kまで冷却することに成功している.今後はこのクライオスタットを使用して冷却実験を行う予定である. 3)冷却装置のゴニオメータへの設置について:当初,粉末回折用のゴニオメータに冷却装置を取り付ける予定で会ったが,現在は応力測定専用装置を冷却装置に取り付ける形で測定を進めている.粉末回折用のゴニオメータには次年度取り付けを試みる.このため,当初の予定とは異なったシステムで極低温応力測定を行うことになる.
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今後の研究の推進方策 |
<目標>:クライオスタットによる冷却,ヒータによる加熱を自動化し,熱サイクルなどの長時間運転を可能とする.その後,繰返し熱サイクル負荷でのその場応力測定をおこなう. <実験方法>:前年度の一定の温度状態における応力測定方法を拡張し,繰返し熱サイクル負荷におけるその場測定を行い,熱応力の挙動を評価する.極低温から高温状態までの連続的な繰返し測定を行うために,クライオスタットを使用した冷却装置の長時間運転が必要となる.さらに,冷却装置をOFFにした状態で試料を高温状態まで加熱する機能も必要となる.このこのため,前年度まで手動で行っている冷却装置の温度制御と応力測定装置の運転,さらにはヒーターによる加熱制御を追加し,それぞれの制御を連動させたコンピュータ制御システムを構築する.その後,長時間におよぶ繰返し熱サイクル負荷による熱応力評価を行いFPR内部の応力挙動を評価する.測定方法はFRPに対して15Kから500Kの熱負荷を繰返し与えX線その場測定による応力評価を行う. <解決すべき課題>:その場測定法は金属基繊維強化複合材料においては既に実施されているが,温度範囲が室温から高温の測定のみであり,極低温から高温にかけての連続的な熱負荷サイクルにおけるその場測定の試みはこれまではない.温度範囲が広いことから,ゴニオメータやサンプルフォルダーなどの測定周辺機器の熱ひずみによる誤差の発生が懸念される.このため,d0サンプルなどを用いた原点調整を頻繁に行う必要があると考えられる.また,当初は液体窒素による冷却を予定していたことから,実際の測定時間は利用できる液体窒素の量に依存することが予想された.しかしながら,昨年度からそのシステムをクライオスタットに変更したことから液体窒素よりランニングコストが安価であり,かつ,長時間運転が可能となった.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度,試料の応力測定の基礎データの収集を中心に行い,購入予定の”吹き付け式極低温冷却装置”を購入しなかったため.購入を遅らせた理由としては,現時点で各メーカの製品を調査した結果,液体窒素を噴き付ける機構の冷却装置ではサンプルの温度をフィードバックする機能がないため温度調整が難しい.そのため,ヘリウム循環方式のクライオスタット変更し全体の価格が安くなった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は試料の冷却装置および加熱機構を粉末回折用のゴニオメータ上に設置する.本年度購入したクライオスタットは吹き付け式極低温冷却装置に比べて真空チャンバーなどの設備が必要となり,引張試験機などの設置には追加で周辺装置を準備する必要がある.次年度予算はこれらの周辺機器の整備に使用する.
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