まず工具逃げ面の摩耗の推定であるが、下向き削りにおけるボールエンドミル工具の逃げ面の摩耗幅と切削抵抗との関係について調べた。その結果、逃げ面の摩耗の増加に伴って切削抵抗は大きくなり、切れ刃の方向が加工面に垂直になる位置(切削開始点)の前後での半径方向の分力(背分力)は、工具のたわみに起因する加工誤差を推定するのに有効なだけでなく、逃げ面の摩耗の推定にも有効であることが分かった。しかしながら、逃げ面の摩耗幅と半径方向の分力との関係はばらつきが大きいため、半径方向の分力から逃げ面の摩耗幅を定量的に推定することは困難であった。この原因として、切削終了点の前後では切り取り厚さが小さく、小径ボールエンドミル工具では工具のたわみによる切取り厚さの変化が無視できないこと、切削終了点での切削状態は不安定であり、再現性が乏しいことが考察された。 次に加工誤差の推定であるが、動的切削抵抗の測定値からFFTにより周波数特性を求め、打撃試験により得られたエンドミル工具系の周波数応答関数を乗ずることで工具の振動変位の周波数特性を求め、さらに逆FFTを行うことで、工具の振動変位の時間応答を求めた。この方法の有効性は、同時計測した工具の振動変位の実測値と比較することによって検証した。また加工誤差の推定値は、工具の振動変位の時間応答からエンドミル工具の切れ刃が加工面に垂直になる位置での振動変位とした。提案した方法により得られた加工誤差の推定値は、加工誤差の実測値とほぼ一致したが、定量的には差が見られた。この原因として、エンドミル工具の振動特性の実測値を用いる場合、打撃試験では有効な周波数の範囲が限られており、特に低周波数域での測定誤差が逆FFTで振動変位を求めた場合に振動変位を大きく変動させてしまうこと、また切削中のエンドミル工具系の振動特性は、静止状態の振動特性と異なってしまうことが考察された。
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