研究課題/領域番号 |
25420071
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
瀬戸 雅宏 金沢工業大学, ものづくり研究所, 講師 (90367459)
|
研究分担者 |
池永 訓昭 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (30512371)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 射出成形 / DLCコーティング / 接合強度 / 成形条件 / 成膜条件 |
研究概要 |
自動車の排気ガス削減・燃費向上を目的に,自動車分野では部品の軽量化が積極的に行われている.自動車部品の軽量化として金属材料から樹脂材料への変更があるが,エンジン周辺部品や強度が必要な構造部品においてはすべてを樹脂化することは困難であり,金属と樹脂成形品を接合した複合部品に期待が寄せられている.金属樹脂複合部品の成形は,表面に微細な凹凸を加工した金属部品を金型内にインサートし,射出成形によって樹脂を金型内に充填して,アンカー効果による金属部品との接合と成形を同時に行う成形方法が注目されている.しかしながら,アンカー効果による金属と樹脂の接合強度は,樹脂成形時の成形条件によって大きく変化し,また十分な接合高度が得られていない問題がある. 本研究では,金属接合部表面の微細な凹凸に流れ込む樹脂の流動を可視化観察して,金属表面凹凸部への樹脂流入挙動の成形条件の影響を明らかにし,接合強度を向上させるための最適な成形条件を確立する.さらに,接合強度を実用レベルにまで向上させるためガラス繊維強化樹脂に着目し,ガラス繊維の配向と樹脂流動を制御して凹凸部に十分に充填させる手法を確立する.また,金属表面と樹脂の濡れ性を向上させるため,金属表面に樹脂との接着性の高いコーティング技術を構築し,アンカー効果との相乗効果で接合高度を向上させることを目的とする.今年度においては,その第一段階として,金型内可視化技術により,金属表面の凹凸部に流れる樹脂流動挙動と成形条件の関係を明らかにし,樹脂と金属の接合強度を向上させる成形条件を明らかにした.さらに,金属表面にフッ素を含有したDLCコーティングを施し,接合強度の向上を図った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
種々の成形条件において金属表面に流れ込む樹脂の挙動を観察および樹脂と金属の接合強度を計測して,接合強度向上のメカニズムと最適な成形条件の検討を行った.また,金属表面の接合部にフッ素を添加したDLCコーティングを施し,DLCコーティングによる接合強度の向上効果の確認と最適なフッ素添加量の検討を行った. 金属と樹脂の接合強度に与える成形条件の影響を検討した結果,金型温度および樹脂温度を高く,射出速度を早く設定した条件で接合強度が向上することが明らかとなった.この結果を考察するため,凹凸部に流れる樹脂の可視化観察の結果,凹凸部に樹脂が到達した直後では樹脂の流入は確認されず,樹脂のフローフロントが通過してから徐々に流れ込むことが確認された.同時に接合部の樹脂圧力を測定したところ,フローフロントが通過してから,徐々に樹脂圧力が高くなり,その圧力上昇とともに樹脂が充填されることが分かった.このことから,凹凸部に樹脂を十分流入させるためには,金型からの冷却による樹脂の固化層が成長する前に,キャビティ―内に樹脂を流し込み,接合部の樹脂圧力を高くすることが重要であることを示した. フッ素を添加したDLCコーティングを金属表面に施し,接合強度を評価した結果,DLCコーティングを施していない場合と比較して10%程度の接合強度が向上し,濡れ性も改善されていることが分かった.また,フッ素添加量を変化させた場合では.1.75at%のフッ素を添加すると最も接合強度が高くなり,多く添加しすぎても接合強度の向上は見込めないことが分かった. 今年度はさらに,金型内部にヒーターを設置して接合部を局所的に高温状態にし,樹脂の固化層成長を遅らせ,接合強度の向上を検討する予定鵜であったが,金型の設計とヒーターの選定に時間を要し,実施できていない.今年度の達成度としては80%である.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は,アンカー効果を用いた樹脂―金属接合成形品の接合強度に与える成形条件の影響を金型内可視化観察技術により検討するとともに,金属と樹脂の濡れ性を改善して接合強度を向上させるため,金属表面にフッ素を添加したDLCコーティングを施し,接合強度を評価した.当初計画では,金型内にヒーターを入れて接合部を局所的に加熱して成形中の樹脂の固化を遅らせ,凹凸部への樹脂流入を促進させて接合強度の向上を検討する計画であったが.金型設計およびヒーター選定に時間を要したため検討していない.そのため,今年度は金型内にヒーターを設置して,接合部における成形中の固化層成長をコントロールして接合強度向上の効果を確認する. ガラス繊維を含有した材料における樹脂―金属接合の接合強度を向上させるには,金属表面の凹凸部にガラス繊維を流入させることが必要である.そこで今年度は,ガラス繊維強化された材料を用いて,金属表面の凹凸部に流入するガラス繊維の挙動を可視化観察し,ガラス繊維が凹凸部に流入するメカニズムを解明するとともに,ガラス繊維を流入させるための最適な成形条件および繊維長条件を明らかにする.また,さらに強度を向上させるためには,ガラス繊維を接合面に対して垂直に配向させることが有効と考えられる.そのため射出発泡成形を応用し,気泡の成長によってガラス繊維を垂直方向に配向制御し,接合強度の向上を図る. 金属表面のコーティング技術に関しては,昨年度検討したフッ素以外のドーピング元素(Si)なども検討し,樹脂に対する濡れ性および接着性および金属との剥離強度を評価して最適なドーピング元素を明らかにする.また,金属表面の微細な凹凸部に均一にコーティングすることも課題であり,微細凹凸部に均一にコーティング可能な成膜条件(プラズマ電圧)の最適化を図る.
|
次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究計画では,可視化観察による金属表面凹凸部への樹脂流入メカニズムの解明と金属―樹脂接合強度を向上させるための最適な成形条件の検討,および接合強度に与える金属接合部表面のフッ素添加DLCコーティングの効果を明らかにすること目標とした.これらの研究成果としては概ね計画通りの成果を得ることができた.しかし,金型にヒーターを埋め込み局所的に加熱して接合強度を評価する計画に関しては,金型の改造設計およびヒーターの選定に時間を要し,金型改造の発注ができなかった.設計に時間を要した理由として,ヒーターの埋め込み位置にイジェクタピンがあり,これが干渉してヒーターを埋め込むことができなかったためである.解決策として,金型部品の設計変更をやりやり直し,金型部品の改造ではなく部品を新造することとした. 金型内にヒーターを埋め込み,接合部を局所的に高温にして接合強度を評価する研究に関して,金型の構造上の問題から,金型部品の改造ではなく部品を新造することとし,その費用を26年度に繰り越した.そのため,金型部品の作成費で若干の予算オーバーも考えられるが,当初の26年度の研究計画をおよび予算の執行を効率化し,当初の予算および繰越額の範囲内で26年度の研究を計画通り実施する. 26年度は,発泡成形を応用してガラス繊維の配向を制御し,接合強度の向上を図る.そのため,ガラス繊維および発泡材の購入,ガラス繊維の表面処理費用に予算を充てる.また,金属の表面加工法としてコストの観点からプレスによる表面加工を検討する.そのため,プレス金型の費用を計上しているが,現状金型の一部を改造することで予算の削減を図り,その費用をヒーターを埋め込んだ射出成形金型の製作費用に充てる.
|