小型加速器を使用した中性子源システム(RANS)による回折実験では、動的な材料塑性変形過程に対応した結晶構造変化を捉えることが難しいことから、大強度陽子加速器施設(J-PARC)を使用した回折実験の詳細検討を行ない、実際に工学材料回折装置(愛称:匠)を使用して延性破壊に至るまでの結晶構造変化を捉える実験を行なった。 匠を使用した回折実験では、材料試験片が短軸引張試験により延性破壊に至るまでの時間変化に対して逐次結晶構造変化を捉えるために、くびれ現象が発生して破断に至る直前まで試験片中央部に中性子ビーム照射エリアを確保できる特殊形状を有する試験片を製作し、引張変形の進行に対する引張軸に平行及び垂直方向の回折中性子強度を測定した。 この回折実験により、bcc結晶の回折面である(110)、(200)、(211)、(220)、(310)、(222)に対する中性子強度が塑性変形の進行に伴なって変化していくことが追跡でき、すべての結晶ですべりが進行していることが確認できた。特に、(110)結晶粒群の比率が他の方位の結晶粒に比べて大きく、塑性変形の進行に対する増加傾向も顕著であり、試験片の幅が減少し始めるくびれ現象発生時、さらに板厚減少が顕著になる各段階では(110)結晶粒群の増加の割合が変化していることが明らかとなった。したがって、材料破断に至る直前の局所くびれ変形過程における幅減少、板厚減少を中性子線回析により捉えることが可能と考えられる。 また、弾塑性FEMによるせん断加工解析では、延性破壊条件として限界ダメージ値の同定及びアルゴリズムの改修等により、実際のプレス金型における複雑な加工条件下での成形解析でも計算が止まることなく成形条件最適化のために有用な解が得られることが確認できた。
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