研究課題/領域番号 |
25420082
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
青木 才子 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (30463053)
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研究分担者 |
葭田 貴子 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80454148)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トライボロジー / 摩擦 / 分子膜 / 指 / 感性 |
研究実績の概要 |
本研究では,高分子化合物から形成した吸着分子膜の分子構造とその分子膜における指のトライボロジー特性との関連性を明らかにして,タッチパネルディスプレイ表面保護膜の最適設計を最終目標とする.本研究を,「指先による実際のタッチにおけるトライボロジー特性解明」,「実スケールでの摩擦計測に基づいた分子膜の最適設計」,「指先の操作感と摩擦抵抗における皮膚感覚の相関性の評価」に分類し,共同研究者と協力しながら,それぞれ並行して進めていく. 平成26年度は,前年度までに試作した,指先操作の3軸動的測定を可能とする圧電型3分力センサによる平板型装置を用いて,モデル分子膜を施したタッチパネル用ガラス試験片における指の摩擦特性を評価した.分子膜被覆表面における指の摩擦係数を垂直荷重とすべり速さを相関因子として重回帰分析により評価し,モデル分子膜被覆表面において摩擦係数の荷重および速さ依存性を見出し,一つの相関式として表すことが出来た 次に,分子膜の最適設計として,モデル分子膜の一つである直鎖アルキル基を有する自己組織化単分子膜(OTS-SAM)について,その分子膜の成膜状態が指のすべり摩擦特性に及ぼす影響を評価した.分子膜の形成状態として分子膜厚に着目し,分子膜厚が異なる数種類の表面を用いて3分力計により摩擦試験を実施した結果,すべりの間に指の接触面積が一定であると仮定すると接触面積と摩擦力はおよそ線形関係となり,接触界面のせん断強さが指の摩擦特性に影響することが明らかになった. さらに,指先の摩擦現象と操作感の相関性の評価に向けて,タッチパネルディスプレイの応答時間に任意の遅れを生じさせ, 被験者が特定のタスクに取り組むときの荷重, 摩擦力, すべり速さを測定し, 遅れの度合いと力学データとの相関を調査した.その結果,応答遅れの度合いと被験者が指をすべらせる速さには負の相関があることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は,前年度までに試作した3分力測定装置を用いてモデル分子膜を形成したタッチパネル用ガラス試験片により摩擦試験を実施し,指の摩擦特性の解明に向けてより多くのデータ収集に努めた.また,分子膜の最適設計として,分子膜の成膜状態が指の摩擦特性に及ぼす影響を明らかにするため,モデル分子膜として自己組織化単分子膜を用いて,その膜厚を変化させて指の摩擦特性を評価し,指の接触面積が一定であると仮定すると接触界面のせん断強さが指の摩擦特性に影響することが明らかになった.さらに,指先の摩擦現象と操作感の相関性の評価についても,タッチパネルディスプレイの応答時間に着目して,力学的データとの関連性について一定の成果が得られており,本研究はおおむね予定どおり進展していると思われる.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では,前年度までに試作した3分力測定装置を用いて,モデル分子膜における指の摩擦特性を評価するとともに,分子膜の成膜状態が摩擦特性に及ぼす影響を明らかにした. 平成27年度では,(1)指先による実際のタッチにおけるトライボロジー特性解明として,平成26年度までに得られた結果を基に,分子膜被覆固体表面における指の摩擦特性のデータ収集と解析を進めていくともに,指の接触面積と摩擦力やその相関因子との関係を明らかにするため接触顕微鏡を備えた3分力計を試作しデータ収集を実施する. 次に,(2)実スケールでの摩擦計測に基づいた分子膜の最適設計として,指の摩擦特性に及ぼす分子膜の成膜状態の影響をより深く検討するために,(1)で試作予定の接触顕微鏡による摩擦力と接触面積の同時測定を実施し,分子膜の成膜状態が接触面積に及ぼす影響について検討する.また,モデル分子膜としてフッ素系高分子化合物など有機分子膜など使用し,分子膜の摩擦寿命に対する分子膜の官能基,高分子主鎖や側鎖の構造,最適分子量の影響について評価を実施する. さらに,(3)指先の操作感と摩擦抵抗における皮膚感覚の相関性の評価に関して,前年度までに指先の摩擦と操作感に関する工学的観点として,タッチパネルディスプレイの応答時間と指の摩擦特性の関連性に着目し実施された予備調査の結果を基に,多数の被験者に対して本調査を実施して,データベースの充実を図る.指先の摩擦感覚と操作感性との相関性を評価する手法を構築し,相関マップの作成を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度では,タッチパネルディスプレイの応答時間と指の摩擦特性の相関性を評価する実験に関して数名の被験者による予備調査を実施したが,想定された被験者数よりも少なかったため,物品費や人件費などに未使用見込額が発生した.平成27年度は,この未使用見込額を物品費として計上し,接触顕微鏡の試作に向けた材料費として使用する予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度において,物品費は,上記の材料費に使用するほか,摩擦試験関連,分析機器関連の消耗品として使用する予定である.また,旅費では,本研究の成果発表として,1~2回の国内会議および1回の国際会議での発表による出張費として使用する.謝金・その他では,被験者への謝礼金として使用する予定である.
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