研究課題/領域番号 |
25420087
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野老山 貴行 名古屋大学, 工学資源学研究科, 准教授 (20432247)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 摩耗 / 衝突 / DLC / 潤滑油 |
研究概要 |
DLC膜の衝突摩耗に伴う構造変化の有無,結晶性の維持の有無を明らかにするため,繰り返し衝突可能な実験装置を用いた繰り返し衝突試験を行い,衝突部分のラマン分光分析を行った.高速度(SKH2)鋼基板にDLC膜を2,3及び4マイクロメートルの厚さで成膜を行い,異なる衝突荷重70,160及び240N,衝突角度90°(垂直),60°及び45°のすべりを伴わない場合及び伴う場合を用いた衝突摩擦摩耗試験を行った.衝突に伴ってDLC膜表面には衝突痕が形成されるため,この表面の衝突痕深さをAFMにより測定した.この際衝突に伴って基板材料も塑性変形することが予想されるため,FIB(収束イオンビーム)装置を用いて試験片の摩耗痕部分を切断し,断面観察から正確な膜厚減少量を測定した.また,衝突痕内のDLC膜結晶構造変化を明らかにするため,衝突痕内のラマン分光分析,XPS(X線光電子分光)分析を行い,衝突に伴う構造変化の有無,結晶性の維持の有無を検証した.ラマン分光分析の結果から繰り返し衝突回数がメガサイクル及び実験条件の苛酷な240Nにおいては1万回の繰り返し衝突において非常に大きな摩耗が発生することを明らかにした.また,この際のDLC膜には基板界面から表面に向けて垂直き裂が発生する様子もFIB加工の結果明らかにされた.ラマン分光分析結果によると,膜内部の1マイクロメートル程度の深さまで情報を含んだ状態ではあるが,繰り返し衝突に伴いsp2結晶構造が減少していく様子が確認された.一方,XPS分析によると,極表面からおよそ5nm程度の深さまでの情報では,sp2/sp3の比に大きな変化は起きていないため,表面が徐々に摩耗することにより極表面の結晶構造は初期の膜とほぼ同程度であるのに,膜内部の圧縮変形を伴った部分はsp2結晶構造が減少している可能性が示されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に実施予定であった精密位置決めを行いながらXPS測定を行うため,試験片表面にナノインデンターを用いた圧痕を付与した試験片を何度か作製し,本年度実施可能な状態まで準備を進めることが出来た.そのため,順調に測定に取り掛かれるものと考えている.その準備を平成25年度に試行錯誤することが出来たのが最も大きな要因で,他の実験場の不安な点を解消できたことが順調な研究遂行に寄与している.また,衝突摩耗試験機は本研究開始前に初号機を作製し実験遂行上の問題点を解決できていた点が実験遂行を円滑に行えている最大の要因である.また,実験遂行者がFIB加工を得意としていたため,円滑に実験が遂行できている点も大きな要因の一つである.
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今後の研究の推進方策 |
当初の実験計画に基づき,反射分光膜厚測定を行いながら実質的な硬さ測定を平行して行う必要がある.また,衝突痕内のラマン分光分析及びXPS分析を引き続き行うことが必要である.昨年度までに解決した問題点を基にサンプルの作製,衝突に伴うエネルギーと塑性変形エネルギー,材料内部に蓄積される弾性変形エネルギーなどの総合的なモデル化が必要であるため,本年度は得られた実験結果からまとめを行う必要がある.そのためには,材料力学的な観点及び材料強度学的観点から,材料内部及び極表面の摩耗と材料変形のモデル化を行うために,衝突総エネルギと構造変化の関係についてまとめることが必要である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予想したサンプル数の節約や消耗品の使用量が当初よりも少なく済んだことが原因と思われますが,試験片の保管や,衝突摩耗に及ぼす酸素の影響など新たに取り組むと影響の大きそうな因子がわかり始めたため,これらが実験できるように装置の改造を施したいところです. 試験片作製及び実験装置の改造などへの支出が今後考えられます.また,DLC膜の種類についても検討する必要があり,サンプル作製への支出は増加する可能性があります.また,衝突試験での使用潤滑油への酸素分子の追加など摩耗に影響する因子の追加についても推進したいところで,装置の改造を行いたいところです.
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