研究課題/領域番号 |
25420089
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
竹市 嘉紀 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40293758)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 固体潤滑剤 / 高温 / モリブデン酸銅 / モリブデン酸銀 / 軟質金属 / 還元反応 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究で,酸素(空気)に触れにくい摩擦界面では,モリブデン酸銅は基材の主成分である鉄との還元反応により金属銅が生成され,これが潤滑性を向上させたというメカニズムを提唱した.しかしながら,摩擦試験に用いた試験片のしゅう動面から金属銅を検出することができなかった.この原因としては,多くのモリブデン酸銅が排出されてしまうことや,基材のステンレス鋼が600℃以上で軟化するために,もともと少量しか生成されない銅がさらに検出されにくかったと考えられる.そこで,本研究ではステンレス鋼よりも耐熱性にすぐれた合金SUHを基材として用い,高温化での摩擦面に金属銅の生成が認められないか,詳細な分析を行った. また,摩擦界面で生成された軟質金属が耐酸化性を有するものであれば,摩擦界面での検出が容易になることが予測される.そこで,前年度の実験においてモリブデン酸銅と同様に良好な潤滑性を示したモリブデン酸銀を再び摩擦試験に供し,その摩擦界面の生成物を分析することで,モリブデン酸塩の潤滑メカニズムを解明することを目的とした. この結果,モリブデン酸銅を潤滑剤として用いた摩擦試験後のしゅう動面から,酸化していない金属銅を検出することができ,我々が提唱していた潤滑メカニズムの直接的な証拠が得られた.また,モリブデン酸銀を潤滑剤として用いた場合にも,しゅう動面からは参加していない金属銀を検出することができた.特にモリブデン酸銀の場合には,鉄が触媒となる点ではモリブデン酸銅と同様のメカニズムであるものの,酸素に触れる雰囲気であっても還元反応が起きること,また,200℃程度の比較的低い温度域においても,せん断力などが作用することによっても金属銀が生成され,モリブデン酸銅よりも低い温度域から潤滑性を示すというメカニズムが明らかにされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブデン酸銅の高温潤滑メカニズムについては,多角的な分析や検証実験を元に考察したが,摩擦面の分析による直接的な証拠を得るには至っていなかった.今年度は高温でも優れた機械的特性を有する耐熱合金SUHを基材に用いることにより,高温での基材の変形を防止するとともに,再度,詳細な分析を実施した.この結果,700℃で摩擦試験を行ったしゅう動面から酸化していない金属銅を検出することができ,「モリブデン酸銅が高温環境下での摩擦において,基材の鉄との還元反応により軟質な金属銅を生成し,これが潤滑性に寄与した」というメカニズムの直接的な証拠を得るに至った.さらに,軟質金属である銀を含むモリブデン酸銀についても一連の実験,分析を行い,この場合,同様に酸化していない金属銀の生成が潤滑性に寄与することが示唆され,更に,モリブデン酸銀の場合は比較的酸素に触れる機会が多い環境においても容易に金属銀が生成されること,また,基材に鉄を含まなくても,200℃程度の温度であればせん断力等によっても金属銀が生成されることを明らかにした. これらの成果の一部は,国際会議 International Tribology Conference 2015(日本開催)において発表を行った.また,国際学術誌 Tribology Online に投稿した論文の内容に対し,高い評価を受け,論文賞受賞の内定を受けた(受賞は2016年度の予定).
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今後の研究の推進方策 |
当初は被膜化に関する実験を主に進める予定であったが,モリブデン酸銅の潤滑メカニズムをより明確にすることの方が重要であると判断し,方針を変更し,メカニズム解明のための研究を2015年度の主な内容とした.2016年度においては,2015年度内に調べきれなかった,高温潤滑メカニズムに関する検証実験を引き続き実施するとともに,改めて被膜化に取り組む. 前者については,モリブデン酸銀が200℃の比較的低い温度域においてせん断力などを受けることで銀が生成したメカニズムについて,詳細に調べる.後者については,過去に取り組んで中断していた成膜化の試みを継続する.モリブデン酸銅粉末をブチラール樹脂に混合して試行した成膜化では低温での潤滑性を向上させることができなかったが,これはモリブデン酸銅から銅が還元される温度域とブチラール樹脂が消失する温度域との関係が適していなかったためと考えられる.そこで,モリブデン酸銅よりも低温域で軟質金属が生成されるモリブデン酸銀をブチラール樹脂と併せて用いたり,モリブデン酸銀とモリブデン酸銅の二種類を混合した成膜をすることにより,広い温度域で潤滑性を発揮できる潤滑被膜の生成に取り組む.また,これと併せて,消失温度が異なるバインダーを用いた実験にも取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた成膜化の実験に代わり,モリブデン酸銅およびモリブデン酸銀の高温潤滑メカニズムを解明するための実験を中心に行った.このため,学内の共同利用分析機器の使用料が多くなり,一方,成膜のための実験に要する費用が抑えられた. 最も大きな支出予定であった「中倍率ズームユニットレンズ」については,前年度の理由と連動し,購入機器の変更により不要となった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は研究の最終年度となり,モリブデン酸塩の高温潤滑メカニズムをより深く明らかにする必要がある.そのため,分析観察活動はより重要となり,共同利用分析機器の使用量が大幅に増額するものと考える.
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