油やグリースが使えないような高温環境下でしゅう動する部品に,モリブデン酸塩を固体潤滑剤として適用することを目的としてきた.最終年度は,前年度の実験で,潤滑性を示す可能性が見られたモリブデン酸銀について,高温での基材との反応機構などを詳細に調べること,また,コスト面での問題を考慮し,適切な合成条件について調べることを目的として研究を行った.なお,昨年度の研究では市販のモリブデン酸銀粉末を使用している.その結果,比較的安価な酸化銀(Ag2O)および三酸化モリブデン(MoO3)の粉末を混合し,大気中で400℃以上に加熱することで,モリブデン酸銀が得られることが分かった.また,その反応プロセスについても以下のように推定された.まず,比較的低い200℃程度では,酸化銀の還元反応が起こってAgが形成される.温度が400℃程度まで上昇すると,2種類のモリブデン酸銀,Ag2Mo2O7 および Ag2MoO4 が形成される.ここで,酸化銀と三酸化モリブデンが直接反応するのではなく,一旦,還元反応で形成される銀と三酸化モリブデンが反応することになる.さらに,900℃まで温度が上がると,反応が進み,最終的には Ag2MoO4 が得ることが明らかとなった.前年度までの研究により,モリブデン酸塩の潤滑メカニズムとして,モリブデン酸塩自体の軟化にあわせ,金属銅や金属銀の形成が潤滑性向上に寄与したと考えられている.今年度のモリブデン酸銀の合成温度が最終的に900℃に達していることを考慮すると,特に,モリブデン酸銀で200~300℃で軟質金属である金属銀が形成されるメカニズムとして,単なる分解ではなく,基材との反応や荷重・せん断力による反応であることが,明らかとなった.
|