平成27年度は,(1)温度,湿度,非摩擦時間の三つのパラメータの全てを独立して変えた鉄対鉄の摩耗試験をおこなった.また,(2)水素の同位体で構成される水を使って,鉄のシビア・マイルド摩耗遷移機構における雰囲気水分子からの吸着層の役割を明らかにすることを試みた. 第1の実験の成果は以下の通りである.実験では温度を30℃から60℃までの4通り,相対湿度を1%以下から80%までの5通り,非摩擦時間を0.5から13.5までの4通りとして,全ての条件で一次元摩耗量を測定した.ほとんど全ての条件において非摩擦時間を延ばすことによって摩耗は増大した.全ての湿度において温度の上昇は摩耗を減少させた.それらに対して湿度効果は単調ではなく,1%以下に比べて20%の湿度は摩耗を増大させたが,それ以上の湿度は摩耗を減少させた.マイルド摩耗が生じる限界条件は非摩擦時間よりも温度・湿度に対してより敏感であった.すなわち,30℃ではマイルド摩耗は湿度80%のみで生じたが,40℃にすると湿度範囲は60%以上に拡大した.さらに50℃では40%以上となった.別の言い方をすれば,湿度80%では30℃以上でマイルド摩耗になるが,湿度60%では40℃以上が必要で,湿度40%では50℃以上が必要であるといえる.このように,空気中の水分と摩擦材の温度が相補的,補完的に効くのがマイルド摩耗という現象であることが明らかになった. 第2の実験の成果は以下の通りである.重水を含んだアルゴンガスによって摩擦部分の雰囲気を置換し,重水素を含む陰イオンの摩耗面における存在量を飛行時間型二次イオン分析装置で解析した.その結果,シビア摩耗面や未摩耗面に比べてマイルド摩耗面には約5倍の量の重水素化された陰イオンが存在していた.この結果から真空にしても脱離しない水からの化学吸着層の存在がマイルド摩耗面の土台として機能していることを明らかにした.
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