研究課題/領域番号 |
25420102
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井工業高等専門学校 |
研究代表者 |
加藤 寛敬 福井工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (30311020)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超強加工 / 微細結晶粒材料 / 摩擦摩耗 / 高圧ねじり加工 / 結晶粒サイズ |
研究概要 |
本研究の目的は、超強加工により作製したバルクナノメタルの特異な摩耗特性を、摩擦摩耗により組織が変化した摩耗変質層の金属学的性質と力学特性と関連づけることにより明らかにして、耐摩耗性に優れたバルクナノメタルを開発することである。 1年目である平成25年度では、バルクナノメタルとして超強加工の一つであるHPT加工材を採り上げ、HPT加工における加工条件が材料の組織(結晶粒サイズ)や硬さに及ぼす影響を明らかにすることと、HPT加工材の摩耗試験における摩擦条件が摩耗特性に及ぼす影響を調査することに重点を置いて実施した。 試験材料は、Fe-11ppmC の極低炭素鋼で、ほぼ純鉄に近い成分の材料である。この試験材料を放電加工によりφ10mm×t0.85mmの形状に切り出した後、焼なまし処理 (1000℃、1hour)を施し#400の研磨紙で研磨して、HPT加工の供試材とした。HPT加工では、試験片を中央に凹の窪みが付いた上下のアンビルで挟み込み、試験片に大きな圧力をかけながら両アンビルを相対的に回転させ、これにより試験片内にせん断ひずみを導入した。回転回数をN=0(圧縮のみ)、1/4、1/2、1、5、10の6水準とし、圧縮応力5GPa、回転速度0.2rpmの条件で行い、種々の結晶粒径をもつ微細結晶粒材料を作製した。 一方、トライボロジー特性の評価は、回転するディスクにボールを押し付けてすべり摩擦させるボールオンディスク摩耗試験機を用いて行った。摩耗試験条件として、雰囲気はアルゴンガス(99.999%)中、摺動直径は5.0mmで一定とし、相手材がSUJ2ボールの場合は、摩擦速度0.002m/s(ディスク回転速度6rpm)、荷重4kgf、試験時間20分で、相手材が超硬合金ボールの場合は、摩擦速度0.047m/s(ディスク回転速度180rpm)、荷重1kgf、試験時間 2分で行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の具体的な研究成果として、以下の3点が得られた。 (1)HPT加工を行うと約0.2μmのサブミクロンオーダーまで結晶粒が微細化した。また、HPT加工材のビッカース硬さHvと結晶粒径d-1/2をグラフにプロットすると直線関係が得られ、硬さと結晶粒径の間にホールペッチの関係が成り立つことがわかった。 (2) 相手材がSUJ2ボールの摩耗試験の場合、HPT加工回転回数の増加にしたがって摩耗量が減少し、HPT加工により耐摩耗性が向上した。また、HPT加工材の硬さが上昇するにしたがって摩耗量が減少した。 (3) 相手材が超硬ボールの摩耗試験の場合、HPT加工材、鉄系材料の比較材ともに硬さの上昇にしたがって摩耗量が減少し、硬さの変化に対し同一の曲線上に分布する関係が得られた。 このことから、1年目の研究目的がほぼ達成され、おおむね順調に進展している。しかしながら、走査型電子顕微鏡(SEM)が建物の改修工事により半年間使用できなかったため、摩耗変質層の観察ができず、本研究の最終目的の一つである超強加工により作製したバルクナノメタルの特異な摩耗特性を、摩擦摩耗により組織が変化した摩耗変質層の金属学的性質と力学特性と関連づける研究までには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
HPT加工における加工条件が材料の組織(結晶粒サイズ)や硬さに及ぼす影響を明らかにできたので、今後は、HPT加工材の摩耗試験における摩擦条件(摩擦速度、面圧(荷重)、相手材、雰囲気、試験時間)が摩耗特性に及ぼす影響を明確にする。また、摩耗試験で生成した摩耗変質層の金属学的性質(結晶粒サイズ、結晶方位、転位密度)と力学的特性(硬さ)を明らかにして、バルクナノメタルの摩耗特性を摩耗変質層の性質と関連づけて解明する。 さらに、摩耗試験結果をHPT加工条件にフィードバックしてバルクナノメタルの耐摩耗性の向上を図る。すなわち、生成する摩耗変質層の性質を摩擦条件によって分類し、摩擦条件に応じて耐摩耗性に優れたサブミクロン微細結晶粒材料を作るためのHPT加工条件を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本課題の重要な研究設備であるFE-SEM(走査型電子顕微鏡)が約半年間使用できなかったため(保有する建物(地域連携テクノセンター)の改修工事のため)、摩耗試験により生成した摩耗変質層の詳細な組織観察ができず、微細結晶粒材料の摩耗特性の解明に遅れが生じたことが理由である。 物品費として、HPT加工材の摩耗試験片(ディスク、ボールの材料費・加工費)や洗浄用薬品(アセトン他)、摩耗試験雰囲気用のガス(高純度Ar)、試料切断研磨消耗品(切断砥石・研磨砥粒)、真空排気関係消耗品、SEM・TEM試料作成用消耗品(試料ホルダー、FIB消耗品等)、硬さ試験用インデンターなどの消耗品に加えて、成果発表として学会発表用の旅費や登録費、論文別刷り代などの使用を計画している。
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